ソ連によるアメリカ社会批判。プロパガンダとしてみると如何なものかと思うが、資本主義批判としては面白い。米国上院議員の正体が実はカネがあるだけのブルジョワの飼い犬であると煽っている。
ある資本家の遺産を目当てにやってくる親戚縁者。しかし遺言によると遺産は全て愛犬のブルドックに与えるという。莫大な資産を得たブルドックは何をするかというと…

シンプルにアメリカ社会批判とすれば、アメリカではカネさえあれば上院議員になれる金満社会だということ。さらに言えば、選挙制度に支えられた民主制批判を含むかもしれない。議員など有権者のために存在するものではなく、資本家の別の在りように過ぎないと煽っているともとれる。
また、穿った見方をするなら、カネを得るとブルドックさえブルジョワと同じに“振る舞う”ようになってしまうことから、巨大な資本はその者の性質を変える毒だと訴えているようにも感じられる。ブルドックは莫大な資本を得たがために、劇中でいうところの"snob"に堕してしまう。犬にもかかわらずブルジョワのようにシェフに食事を作らせ、ナイフとフォークで食事をし、身なりを整え、タキシードを着て、社交界に繰り出すのである(この時には既に二本足で歩いている)。
金持ちの会合ではストリートの反戦運動に対し牙を剥き、"デマゴーグ"を撒き喚く。その後暇を持て余すように、政界へ進出していくブルドック。

要は共産主義陣営から見た上流気取りの資本家批判なのだが、これは的を射ていると思う節もある。アメリカの成功者の大部分が欧州貴族のような上流社会ではなく成金だったことを考えれば、アメリカ社会のコンプレックスをうまくついているともとれる。共産主義の思想からしたらヨーロッパの上流社会・資本家も等しく攻撃対象なのだろうけど、ことアメリカについて"snob"という言葉で資本家を叩くのはなるほど痛いところを突いているんだろうなと唸ってしまう。
一方、キャバレーの乱痴気騒ぎや、親戚縁者がブルドックに媚びるように変化してしまうこと、結局資本家が当選してしまうこと、それらから見るに資本家だけでなく、アメリカ有権者らも“snob”と煽っているのだろう。

まぁ資本家なり上院議員なりを犬になぞらえるのはそもそも如何なものかと思うのですが、なぜだかブルドックは資本家の表象としてよく使われる犬種。
可愛いのに…たいてい醜く目つきの悪い顔になってます…

あとは音楽とキャバレーや夜の摩天楼の描き方。西側諸国からの情報統制があるソ連内で作られるプロパガンダアニメーションでは、西側諸国を戯画化して描くのだけど、それが西側のカルチャーを紹介する有力な作品になっている矛盾が面白い。今作ではとりわけ音楽がしゃれている。

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★1/2