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トッド・ソロンズの子犬物語のMikiMickleのレビュー・感想・評価

4.0
『トッド・ソロンズの子犬物語』

まず初めに言っておくが、これはその題名やジャケのほんわかしたイメージとは全く違う。
なんて言ったって、監督と脚本がトッド・ソロンズなのだから。

トッド・ソロンズ。私の大好きな監督ベスト10に入る。今作もずっと楽しみにしていた新作。

彼の作品は、きついタブーを淡々とした救いのないストーリーとセリフによって描く。痛々しい笑いと共に。それは、ニヤっと笑ってしまうような、しかし、笑ってはいけないような悪意に満ちているのだ。
人間の愚かさとどうしようもなさと救いのなさとダメさ加減と醜さと虚栄と、そしてそれに気づいていない姿を、
時にユーモアであったり、時に苦笑いし、時に胸に突き刺さりながらもことごとく辛烈に描く。際どすぎるブラックユーモアという形で。


ストーリーは4つの話のオムニバスになっている。
1匹のダックスフンドがペットショップに並ぶ所からストーリーは始まる。

①彼が買われたのは、ある裕福な少年の家。小児ガンを患う息子レミに父が買い与えた。しかし、母(ジュリー・デルビー)は文句たらたら。その父もすぐに「このくそ犬‼」と罵り、犬は新聞紙を敷かれた檻に入れられたまま。レミは犬を“ウインナードッグ(ダックスフンドの意味)”と呼び可愛がるが、グラノーラバーをあげたためにウインナードッグはゲロと下痢まみれ。長回しでウンチみせられる。なんなんだ(笑) そして、弱っていく犬……
結果、両親はある決断をする…
犬を心配する病気の息子にかける母の言葉は、全くもって居心地の悪いものばかり。絶妙な痛々しさでニヤニヤが止まらない。 愛と命の差別と、的外れでその場しのぎの答えは、息子には響かず、彼の生きる活力を削ぐようなものとなっていく。ブラック極まりない。

②犬はその後、優しい獣医のドーンに飼われる。彼女が犬に名付けた名前はドゥーディー(うんちちゃんw)
このドーン、『ウェルカム・ドールハウス』でいじめまくられていたドーンの大人の姿‼ 夜明けという名前にも関わらず夜明けを見れなかったドーンだけれども、キャストは変われどその姿がみれた‼
そしていじめっ子で今や麻薬中毒となったブランドン(キーラン・カルキン)と偶然再会し、ひょんな事から旅をする。彼が胴長でブサイクなドーンをなじるあだ名がそもそもこの映画の原題「wiener dog」なのだ。繋がるソロンズワールド‼ もう10年以上前に見た映画だけど、彼らのその後が見れただけでも嬉しすぎ。
2人の旅はぎこちなさもあり、不意に心温まるかとおもえば、そこにもまた、犬の去勢手術と並行されるある痛々しい現実の闇や、障害者、中毒患者の闇があり…

③さて、犬は売れない脚本を書き続ける大学教授(ダニー・デビート)へと飼われる事に。チビでハゲでデブで頭の大きい、しがないダニー・デビートの滑稽さを見せる映像だけでもかなり意地悪い笑いなのけれど、彼の状況や何もかもが切ない。そして、もちろんそれだけでは終わらない…

④ブラック・アイド・ピーズみたいなサングラスをかけた金持ちおばあちゃんは犬を「キャンサー(癌)」と名付け、可愛がっている。祖母の元に久々に顔を出した孫娘は、自称アーティストの彼氏をつれて、お金をせがみにきたのだが…このラストがまた……

オムニバス形式であっても繋がるような作風は変わらず、他作品との繋がりもあり、ソロンズワールドは広がっていくが、そんな事は全く関係なく、人の闇を垣間見たい人にはおすすめしたい作品。初期のものに比べると悪とアクは少しトーンダウンしたかもしれないが、それでもソロンズの際どい社会風刺は変わらない。
人間は愚かだ。自分勝手な生き物だ。何も変わらず愚かなままだ。愚かでないと思っていても愚かだ。気づいていない事がそもそも愚かなのだ。そして、自分は違うと思っていても、結局はドングリの背比べ的に、大差ないのだ。
ソロンズ監督は、いつもその愚かさを意地悪く見せてくる。ニヤニヤしながら見せてくる。そのニヤニヤでこっちもニヤニヤする。見てはいけない本質を、これでもかと、見させられる。淡々と。本当に、意地の悪い監督だ。救いなんて別にない。
しかし、その意地の悪い風刺の中に垣間見る、隠れた優しさと愛。ソロンズ監督は、人間が本当は好きなんだろうなと思う。
ただの悪意だけのものではないし、ただのツンデレでもないし、「考えて己を正しなさい」なんてものでは全くないし、でも、ダメな人間への愛がある。それは、愚かさを、蔑みでも批判でも貶しでもなく、ただただブラックユーモアという形で徹底して撮っている。
そして、いつも、なぜか優しい気持ちにもなれるのだ。で、それから突き落とされる(笑) だから、私はソロンズ監督が好きだ。どうしようもない人間への歪みまくりすぎてる愛情。 彼は本当に正直だ。
MikiMickle

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