このレビューはネタバレを含みます
全編が宗教観と信仰の問題に覆われたシリーズ3作目。事件を追う展開はスリリングであり、アクションの見せ場も力が入っている。犯人が明かされるスタイルでも最後まで強く惹き込まれる。
北欧特有の景色の美しさと、カールが放つ最後の台詞が強く印象に残った。素晴らしい。
(追記:2021/06/26)
シリーズ4作を観終え、今作が僅かに頭1つ抜きん出た存在に感じられた。その理由は犯人の動機にこそ在る。簡単に言ってしまえば、他作品は「復讐」に端を発する事件を扱っているが、今作に限っては犯人の生い立ちに根ざした宗教・倫理観に依るものであって、手に掛ける被害者と直接的な関わりは持たない。
誘拐犯であるヨハネスは幼少期をエホバの証人の狂信者である母親に虐待され、信仰を強要されて育っている。彼には姉がいたが、母の暴力から弟を庇ったことで薬剤を浴びせられ、酷い顔面火傷を負い失明してしまう。このとき、彼を救ったのは神ではなく悪魔だった。
「一番必要なときに降りてきてくれて、弱い私を強くしてくれた」
悪魔の子となったヨハネスは、寝ている母をハサミでめった刺しにして殺害に至った。これが悪魔の子として神を信じる者の信仰心を奪う行動の原理である。彼は罪を犯すことでしか自身の存在を肯定し証明できないのだ。この常人には理解し得ない感覚を宿した犯人のおぞましさは他に類を見ない。