垂直落下式サミング

人類遺産の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

人類遺産(2016年製作の映画)
3.5
世界中の廃墟にカメラを向けたドキュメンタリー。
固定カメラを設置し撮影した映像を、ナレーションも字幕も音楽もなしに映画として編集した作品である。脈絡のない荒廃した場所を撮った映像集という内容で、アイドルのイメージビデオに近い。なので廃墟萌えの人でないと上映時間90分が厳しいかもしれない。休日だけあって劇場はなかなか混んでいたが、場内で寝息をたてている人がかなり多かった。
人間の手を離れ廃墟となった土地には『アイアムレジェンド』とか『風の谷のナウシカ』のような寂寞たるポストアポカリプスを思わせる光景が広がっていて、取り残された人工物はその形を保とうと抗いながら風化し朽ちて自然へと取り込まれようとしている。
人の作ったものは人と共になければ死んでゆくのだ。その様は侘しくはあるが惨めではない。“自然”と“人為”双方の尊大さを感じる。
画面に映し出される人不在の空間のなかに野性の生き物の鳴き声が聞こえる度に安堵してしまった。こんな死んだ場所に生が根付いているのだと思うと、だだもう…それだけで愛おしい。
映し出される場所にも我々の世界と同じように太陽が登って沈んでを繰り返し、雨が降り、雪が降り、風が吹いては、波が打ち寄せている。そんな当たり前のことが信じられなかった。