星降る夜にあの場所で

ショタール商会の星降る夜にあの場所でのレビュー・感想・評価

ショタール商会(1933年製作の映画)
4.3
ルノワールが最も多く作品を制作した1930年代で、唯一本人以外が書いた脚本で撮ったコメディ。
しかも製作者が脚本を書いているということで鑑賞前に一抹の不安が…
タイトルバックの終わる数秒前にメンデルスゾーンのあの曲が流れ始め、これは「真夏の夜の夢」のような作品なのかな?なんて考えていると、
目の前にパーッと広がる2分余りの素晴らしい長まわし。
これを観た瞬間に感じた不安は取り越し苦労であったと胸をなで下ろし、すぐにワクワクが止まらなくなる。
そのカメラが追っていたのは、結婚適齢期の一人娘を持つショタール商会の超ワンマン経営者ショタール。
たったこの2分でショタールがどういう人物かが手に取るように理解できる(エンディング間際で、100平米の土地を買い1台の荷押し車から始めた会社を20年で支社16社にまで成長させた叩き上げの商売人であることが明かされる)。
このショタールが、婿殿を貰ったことで今までとは180度違う人間に変わっていく様子がコミカルに描かれ、幸せとはどんな状態をいうのか?また幸せを感じるためにはどうしたらよいのか?を指南してくれるような逸品。
ルノワールのコメディに出てくるメインキャラの筆頭といえば、やはり「素晴らしき放浪者」のブーデュ(ミシェル・シモン)でしょう。
横柄という共通点以外は、全く正反対のキャラなのですがブーデュに勝るとも劣らず最高に笑わせてくれます(生真面目な天然といった感じ)。
キャラに関してもう一つ、小間使いの女性の使い方が非常に上手い!本作のキーパーソンだと思います。注目して頂きたい♪
ただ…演出的にはとても面白いのですが、なんかちょっと不自然。
画面に出てくる時間は、ショタールさんの次に多かった。
クレジットタイトルの順番は①娘②ショタール③婿殿④小間使いなのに…
しかも露出度が少ない娘がなぜか一番最初…
謎です(笑)         モシカスルト、セイサクシャトナニカ…
ではストーリーのネタバレはなるべく避けたいので、いくつかの見どころを。
この作品の前後数作では普通に使用されているルノワールの真骨頂である野外ロケが封印されているようです。
使えるシーンはいくつか見受けられるのですが、オールセットで撮っているように思われます(列車が走るシーンは別撮りとすれば)。
ただそれが逆にカメラワークの妙を引き立てています。
また様々な彼の作品で見て取れる開いた窓やドアを使った室内外の同時撮影の画は毎度のことながら芸術的で躍動感に溢れています。
他にも、ルノワールのアイデアが光る見逃せない演出があります(当時としてはおそらく奇抜なアイデア)。
その中でも一際目立つのがゴンクール賞の凄さを讃える演出。
あくまでも想像でしかありませんが、あれはもしかすると葛飾北斎の伝記を書いてしまうぐらい日本贔屓だったゴンクール兄弟が、ジャポニスムの第一人者であったことを表現した演出だったのかな?
お気に入りのシーンは、ショタールさんが花束を持ってきた少女の左頬にお礼のキスした後(その後一瞬、コマ落ちしたかのようになるので、もしかすると右頬にも?)に、うぅぅ~汚い(*_*;と言った感じで頬を拭うシーンがあるのですが、左ではなく右頬を一生懸命何度も何度も拭ってるんです(笑)
監督か誰かに、キスされた後はこうやってホッペを拭くんだよ♪って機械的に教えられたのでしょう。
もしダブルで笑いを取るために、敢えてNGにせずに意図的に使ったのだとしたら…驚くべき演出です(爆笑)