蛇らい

クルエラの蛇らいのレビュー・感想・評価

クルエラ(2021年製作の映画)
2.6
監督は『ラースと、その彼女』『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』のクレイグ・ギレスピー。突飛な設定の主人公を演出を得意とする点で、この映画に一役買っている。

原案には『プラダを着た悪魔』や『ヴェノム』の脚本家が、脚本と美術には『女王陛下のお気に入り』のスタッフが名を連ね、この映画を様々な側面から補強する盤石の布陣である。そのため、ディテールに関しては、近年のディズニー実写映画の中でも群を抜いているように感じる。

時代設定は70年代のロンドン。ファッション、音楽ともにパンクカルチャーが熱を帯びていた時代。パンクの精神性という文脈から設定を紐解く。

パンクは元々、60年代のロックから派生したジャンルである。軸はロックであるが、お金をかけず、技術的にもっと簡素に、エモーショナルに、本能的な精神性を持った音楽を推進するカルチャーだった。

本作のクルエラ自身も、憧れだったバロネスをリスペクトしつつ、お金をかけずとも知恵と情熱で対抗し、ブランディングされた完成形に、ある種の下剋上を試みる。それらは単にパンクカルチャーのディテールだけに止まらず、双方の精神との親和性も非常に高い。さらにディズニーでは珍しく、実在のブランド名も登場する。

キャラクター造形もクルエラだけではなく、ジャスパーとホーレス、アニータとロジャーたちにもしっかりスポットが当てられている。眼帯をしたチワワのウインクがとにかく可愛らしく、ネズミの着ぐるみを着てトコトコ歩いてる姿は特に必見。

ただ、残念ながら良くも悪くもディズニー作品の域は脱してない。ヴィランを実写化するシリーズでの前例がある通り、どうしてもヴィランを悪者にしたくないという意図が強すぎる。残虐性があったとしても、そこからキャラクターを紐解く自由度があって然るべきだと感じる。排除された残虐性はキャラクターの振り幅を狭め、観客を信頼できていない証拠である。

また、物語の山場が何箇所か用意されているのだが、どの山も同じくらいの高さで、正直入れ替えても不自然ではないくらい横一線に並んでしまっている。終盤に向けて盛り上がるはずが、ここが一番の山場だろうなと思ったシーンの次にさらに同じくらいのテンションの山場が来て、という反復を3回くらいしてしまっている。見せ場がないわけではないのに、あたかもない様に見えるのは作劇として失敗しているのではないかと感じる。

音楽に関しても盛りだくさんのポップス、ロックを映画館の音響で聴くと最高なのだが、映画としては少しくどい印象になってしまった。恐らく歌詞と作劇をシンクロさせているシーンもあるのだろうが、何度も何度も世俗的な音楽ばかりかけられて、胸焼けしてしまう。ここぞというときにかかる一発の曲の破壊力はそこにはない。

いくら魅力的なヴィランを持っていたとしても、ディズニーである以上、革新的なヴィランムービーに関してはここが限界だと感じる。ただ、今年の見逃せない一本であることには変わりはない。オリジンさえ凌駕する、練りに練られたクルエラの造形とクリエイターのチャレンジ精神を褒めたい。
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