Kumonohate

アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダルのKumonohateのレビュー・感想・評価

4.1
ナンシー・ケリガン殴打事件のことは覚えているし、何より、リレハンメル五輪で審査員席に足をドン!と乗せてシューズの紐が解けたことを訴えるハーディングの映像は目に焼き付いている。それだけ印象深い選手だったからかもしれないが、かなり面白い映画だった。

ひとことで言えば、「採点競技の闇の深さとトリプルアクセルの魔性を突きつける映画」。もうひとこと付け加えるなら、「だからこそ、人間ドラマが浮き立つ映画」。

フィギュア・スケートという競技が、誰にも出来ない技を成功させたからといって点数が上がる競技じゃ無いことはわかっていたが、“理想の家族像”なんてものまで表現しなきゃならないとは恐れ入った。それほどまでに“印象”に左右されてしまう採点競技は闇が深い。そりゃあハーディングの素行や周囲の人物やキャラクターはお世辞にも褒められたモノでは無いが、それと点数は別モノでしょうに。

そして、トリプルアクセル。日本人にとっては思い入れの強いこのジャンプを、アメリカ人として始めて公式戦で成功させたハーディングが着氷後にガッツポーズをするシーンは、完全に浅田真央と重なった。どちらかというと、成し遂げることよりミスをしないことが優先する競技にあって、このガッツポーズがいかに魔物であることか。他のどの技よりも達成感が強いトリプル・アクセルに魅入られて、茨の道を進んだスケーターをよく知っているだけに、その魔性を思わないワケにはいかなかった。

ハーディングの生き様を通して、そんな競技の暗黒部がチラ見される作品だった。

そして、それ以上に、こうした暗黒部を通して人間ドラマが浮き立つ作品だった。

もちろん、ハーディングとその周囲へのインタビューが元になっているワケだから、全てが真実だとは思わない。だとしても、ヒールだとばかり思っていたハーディングにも、同情すべき気の毒な点は多々あり、同時にアグレッシブで痛快な人物だったこともわかる。だから、サイテーな奴ではあるが魅力的に思えて来る。そして、そうした魅力は、彼女がのめり込んだのがフィギュア・スケートだったからこそ、より一層クローズ・アップされてくる。闇に対峙するためには、純粋だけじゃダメで、弱くてもダメで、シンプルでもダメで、きれい事でもダメで、喜怒哀楽憎悪嫉妬パニック総動員しなきゃダメ。そんな様々な人間的側面をフル稼働させている様子が、競技の暗黒部を通して見えてくる。それを、必要以上に深刻にならず、ときおり笑いも交えて軽妙に描いているところが素晴らしい。
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