Kuuta

アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダルのKuutaのレビュー・感想・評価

4.0
良作。オススメです。
五輪の代表に選ばれた瞬間、選手は社会の代表=American Familyとなり、社会のあらゆる欲望を映し出す「鏡」を背負う。USAのジャージを着て、やつれきった顔の痣を化粧で隠しつつ、涙を流す。

グッドフェローズ的なハイテンポな編集。ボイスオーバーやポップな音楽を織り交ぜたエンタメでありつつ、擬似インタビューを取り入れて「藪の中」のような社会的メッセージも入れ込んでいる。

クズみたいな人生を送り、何もかもが相対化されてしまったとしても、トリプルアクセルを飛んだ事実だけは本物。
そんなことを考えていたら、エンドロールでものすごい勢いで飛び回る実際のトーニャの演技、あの笑顔に、思わず涙がこぼれた。エレガントとは言い難いが力強いこの演技は、稀代のスターでありヒールである、そんなことよりずっと前に、トーニャの人生が刻まれた、まさしく一世一代の瞬間なんだよなあという。

他人に人生を消費され尽くしたとしても、血反吐を吐きながら睨み返す。観客に語りかける手法はもとより、真っ直ぐカメラを見つめて話す最後のインタビューは、ゲラゲラ笑っていた自分に銃口を突きつけられるようで強烈。

ホワイトトラッシュが次々と現れる中盤まではテンポも演出もキレッキレ。襲撃シーンの行き当たりばったりなコメディ感はコーエン兄弟を思い出した。流血まみれのグズグズ話なのに、スケートシーンだけはカメラワークから何からバシッと決めてくる。そのギャップも良。「もう一度五輪に」と誘われ、思わずタバコを吸う手が止まる。

ただ、襲撃以降の流れは、各人の供述の矛盾で引っ張る「割と普通な」映画になり、夫や友人へのフォーカスが増す中で、トーニャの存在感も薄れてしまった印象。トーニャ目線のバランスをもう少し維持できていたら、最後までスピード感を失わない、それこそウルフオブウォールストリートのような作品に仕上がっていたのではと思う。80点。
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