深獣九

キャット・シック・ブルースの深獣九のレビュー・感想・評価

4.0
快楽殺人者ではない、新しいシリアルキラーの姿を見せてもらった。主演を演じるマシュー・C・ボーンの熱演は凄まじく、陰キャで不気味でキモくて、素晴らしい出来栄えだった。
でもこの映画の主題はふたつ。もうひとつは承認欲求で気が触れたユーチューバーの転落だ。胸くそ系映画でもある。

◯殺人猫男
まずフォルムがいい。殺人者テッドはぬぼぅと背の高い男。太ってはいないが体は弛い。顔は黒猫のマスクですっぽり覆われている。鋭い鉤爪の付いた革手袋を着け、赤いロンTは丈がちょっと短い。素顔もイケメンとは言えず、むしろカースト底辺レベル。さらに陰キャ。
最高。好き。

演じるマシュー・C・ボーンの熱演にも触れておきたい。殺人鬼といえば、どろどろ血まみれながらもスマートで、カッコよく殺人をこなしている。ところが猫男はとてもスマートとは言えずヤるときは必死。得物もわりと行き当たりばったりで、その辺に転がってたスコップを使ったりする。容姿同様カッコ悪い。猫コスエロ配信に課金して自慰したり、性衝動を抑えられずのたうち回ったり。
だがそれが不気味さを増し、作品の深みを増すのだ。うまい。

ところでマシューはプロの俳優ではない。監督の親友とのことで、映画出演経験はなかったそうだ。ただコメディ畑の人らしく、監督に望まれた大げさな演技は得意だったのだろう。見事に新しいシリアルキラー像を演じているのだ。


というわけで、満足度高めな作品であった。
殺人猫男の活躍をまだまだ見たいので、続編を強く望む。彼の命は尽きたが、例えば惨殺された猫の恨みを晴らす亡霊になるとか、猫の悪魔から命を受けて動物虐め系ユーチューバーを懲らしめるとか。どうだろうか?
低予算のインディーズ映画なのであまり期待できないかもしれないが。ディスクが発売されたら買って、続編ができるよう応援しよう。

余談だが監督によれば、人に動物の頭を乗せるこのフォルムは、ユーモラスと不気味さを感じられるものということで採用したとのこと。

◯もうひとりの主人公
ストーカーまがいのファンに愛猫を殺された挙げ句レイプされたり、SNSでセカンドレイプの餌食になったり、殺人猫男に命を狙われたり、人生終わるレベルで酷い目にあってるのが猫系ユーチューバーのクレア。もうひとりの主人公だ。

物語としては完全に被害者なのだが、素直にかわいそうとは思えない。なぜかといえば、彼女は猫を使って商売しているし、視聴数を伸ばすために無茶なことをしているからだ。
そもそも頭のネジがゆるい上に、すべてをネタとして見る習慣が身についているから、そういう目に遭うのではないか。

いくらファンだからといって、急に自宅に現れたストーカーまがいの男を家に上げたらだめでしょう。
傷心だからって初対面の男にホイホイついていって、からだを許しちゃあだめでしょう。レイプされた直後なのよ?

危険な風潮に警鐘を鳴らす意図も含まれているのだ、この映画は。承認欲求に溺れたユーチューバーの転落。社会派。


2023年の映画ライフ開始早々、またまた素晴らしい作品に出会ってしまった。ディスクが欲しくなるので本気で困っている。

鑑賞は、大阪ロフトプラスワンで行われたイベント『キャット・シック・ブルース in OSAKA』の配信。監督へのインタビューや質問コーナーもあり楽しめた。次の機会はぜひ会場へ行きたい。

今年も最後まで最高の作品と最低の作品をたくさん観たい。初詣神様お願いリストに載せておこう。

以下ネタバレ見どころ紹介






















◯その他お気に入りのシーン
・死体を不必要に長く映す監督のヘキ
・血を集めるため死体を高いところへ置く描写
・興奮して衆目の中白目を剝いて痙攣するテッド
・死体の横で歓喜に痙攣するテッド
・殺人シーンを映したビデオに魅入る
・その自分と目が合う
・クレアが来たので部屋の武器や死体を片付けるテッドのあわてっぷり笑
・大きなバケツに溜まる9人分の腐った血
・それを漏斗で無理やり飲ませる
・置物で執拗に顔を殴る
・急に悪魔憑き展開になる
・悪魔憑きのクレア(エクソシストさながら
・主人公の名前テッドはバンディから?
・まったく登場しない警察笑

でわー
深獣九

深獣九