けーはち

我が闘争 若き日のアドルフ・ヒトラーのけーはちのレビュー・感想・評価

3.0
ジョージ・タボリの戯曲『我が闘争』の映画化。史上最悪の独裁者アドルフ・ヒトラーは、いかにして生まれたか──ウィーン美術アカデミー受験時代、浮浪者向けの寄宿舎でユダヤ人説教師との知られざる友情を育み、その後凶悪大覚醒する、青年ヒトラーの物語。

★ヒトラー誕生の悲喜劇

2009年ドイツ・オーストリア映画。原題『Mein Kampf』、英語では『Dawn of Evil - Rise of the Reich』と邪悪感マシなのが面白い。邦題はやや説明的。鬼気迫るヒトラー青年を演じたのは『ピエロがお前を嘲笑う』等のトム・シリング。今頃新作としてDVDリリースしたのは近年ヒトラーものが増えたので便乗かもね。

画作りはクラシックな伝記風だが史実に沿った形ではない。ホロコーストの憂き目に遭い、生誕地を追われた劇作家タボリの書く皮肉な寓話めいた喜劇には成り切れない滑稽と残酷の渦巻く悲喜劇。

どう皮肉で喜劇的かっていうと、寄宿舎のユダヤ人の説教師シュロモが、同室の哀れな浪人生ヒトラーをなぜか放っておけず、父親のように世話を焼く(それなのに、ヒトラーは完全にユダヤ人を見下す)が、なぜか若い美女にモテる彼に嫉妬したヒトラーが変な催眠術を駆使し彼女を寝取ろうとしたり、彼の著書『我が闘争』をパクったり、彼の語りから演説手法を学んだり、また美術アカデミーの受験に失敗したら自殺しようと試みそれすら失敗したり、生活費を切り詰めてまでオペラに通いつめたり、そもそも受験のためとはいえ徴兵逃れのため浮浪者同然に生きているのに突如政治イデオロギーに目覚めて国家社会主義を語り始めるところ。

映画として面白いわけではあまりないのだけど、哀れで利己的で傲慢極まりないが何処か可笑しいヤングヒトラーがユダヤ人の友情に支えられながら美術を諦め次第に暗い狂気と敵意とカリスマを帯びていく様相を熱演するトムシリは見どころ。