MikiMickle

犬ヶ島のMikiMickleのレビュー・感想・評価

犬ヶ島(2018年製作の映画)
3.8
その昔、犬嫌いの将軍小林が犬を討伐しようとするものの…という絵巻物から始まる。

近未来の日本。
ウニ県メガ崎市。蔓延するドッグ病により犬達に問題がおこる。
小林将軍の子孫である市長の小林(同じく犬嫌い)は、街の犬を一掃するために、全ての犬をゴミ島に送るという政策に打ってでる。その第1号として犠牲となったのは、スポットという番犬。スポットは、市長の遠縁の親戚であり養子となったアタリ少年の犬だった…
今や姥捨山ならぬ犬捨て島となったゴミ溜めの犬がヶ島。病気の犬たちは数少ない腐った食べ物を求めて、生きながらえていた。
そんな時、島に1機のボロボロの飛行機が不時着する。パイロットは小さな少年 アタリ。スポットを探しに1人でやってきたのだ。出会った犬5匹(4匹は元飼い犬・1匹はノラ)と共にスポットを探すアタリ。
だが、迫る市長の追っ手たち。そして、市長の恐るべき計画がじわじわと進んでいた……

大好きなウェス・アンダーソン監督の、『ファンタスティック Mr.FOX』に続くストップモーションアニメ。

まずもう、この世界感の描き方に興奮を隠せない‼ 本当にいつもブレないなぁ〜‼
シンメトリーな映像の美と心地良さ、定点カメラでの横スライドのカメラアングルの安定感と独特さ、愛情が溢れているとしか思えない美術セットや小道具の数々。
この世界に浸っているだけで、ワクワクが止まらない‼ しかもストップモーションアニメ‼‼ 実写での映画でも不思議な空気感が溢れているのに、コマ撮りによるおとぎ話感がたまらない‼

かつ、今回は日本が舞台という事で、さらに楽しさ倍増‼
和太鼓・歌舞伎・俳句・絵巻物などの古典的日本文化から始まり、ミニマムな庶民の生活の一場面や人物描写や看板。日本贔屓のアンダーソン監督は、あえて、ちょっとズレてそれを描いていると思う。日本人が着物もゲタも身につけていない事など重々承知で描く。そこがまたおかしなキッチュな日本感を醸し出し、ポップさが増す。楽しくて仕方がない♪
また、ゴミ島の犬ヶ島は、津波や地震などの廃棄物が溜まった島であり、そこに愛のある提唱を感じたりもする。

もう、これだけで大満足なのに、ストーリーは更に面白く‼‼ ハラハラな少年冒険活劇であり、押さえつけられた反体制陣の反逆であり、一途な愛であり。アニメという媒体によりポップに表現されるものの、それが逆にわかりやすく表現されていて、身に染みる。

そして、犬達が可愛くてたまらなくなる‼ 一人一人(あえて“人”として言いたい)の個性のユーモラスさとキュートと愛おしさたるやっ‼‼ 可愛すぎる♡監督特有の淡々と飄々とした人物の描き方は、サラッとしているのに気がつけば登場人物たちと何かが繋がっている感じなのだけど、それは犬たちもそうで‼ 愛おしい‼

アタリに対してももちろん、そう。頑張りの押し付けがなく。でも感じる、少年の深い愛情と信念。12歳の彼が心の中で貯めてきた思いと、我慢と、意思と、隠した弱さと、目に溜まる涙が、心を打つ。なんというか、日本的美学というか。

悪役である市長はまさに独裁で非道だが、“大人になりきれない大人”でもあり、憎めなかったりもする。
個人的には、交換留学生の、反体制新聞を書くアフロ女子学生が好きだな♪ 近未来にも関わらずやけに昭和感を感じさせる描写に、第二次世界大戦の時に政府に反抗する新聞を隠れて作っていた教師たちなどの姿が勝手にリンクしたりね。

前述したように、これはストップモーションアニメで、あくまでポップに描かれているのだけれど、市長のプロパガンダや様々な提唱や警告があり、なんか、現代のおとぎ話のような作品だなぁ〜。悪を討伐という話は「Mr.Fox」にも通じるし、普段の実写映画ではそう言ったものを描かないアンダーソン監督がアニメを用いて描いた事に意味があると思う。こんな話を日本を舞台に描いてくれた事が嬉しく感じる。ストーリー的には黒澤映画がありつつ、不意に小津安二郎の雰囲気もありつつ、あくまでもアンダーソンにしか作れない唯一無二の世界。
ウェス・アンダーソン監督の映画はいつも、サラッと楽しめて、ポップで可愛らしく、独特の美的センスで心踊るけれど、それだけではない余韻をじわりと残す。余韻でいっぱい。何度も見たくなる作品。
MikiMickle

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