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ふたりの J・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏のslvのレビュー・感想・評価

3.9
3年前に公開されたドキュメンタリー映画『作家、本当のJ. T.リロイ』を観て、40歳の女性作家ローラ・アルバートがJ.T.リロイという架空の人物を捏造して世界を騙すに至った経緯や事の顛末は知っていたけど、今作はローラ・アルバートに頼まれてJ.Tに扮していたサヴァンナの視点をメインに描かれたストーリーなので、心情的に共感や同情の出来る部分も多く、ドラマチックでエンタメ性もある作品となっていて面白かった。

ローラ・アルバートを演じるローラ・ダーンは、ノリノリで演じている感じが観ていて凄く楽しかったし、どこか憎めないようなチャーミングなキャラクターもめちゃめちゃハマっていて、まさに適役だったと思う。

そしてクリステン・スチュワートは華奢すぎて正直どうみても女性にしか見えなかったけれども、ベリーショートにした中性的なルックスが最高にクールで美しかったし、J.Tとして人々を欺き続けるサヴァンナの葛藤をとても繊細に演じていて素晴らしかった。

初めは写真だけでJ.Tとしてのモデルになるつもりが、ローラの強引さに圧され続けて次第にどんどん後に引けなくなるサヴァンナが、こんなにも苦悩していたのかと思うと切なかった。

ドキュメンタリーを観た時にも思ったけど、ローラ・アルバートが世界をだまし続けて造りあげた『J.T.リロイ』という虚構は、もちろん詐欺みたいなものだけど、本当の自分じゃ見向きもされないと思う気持ちや、彼女が自分の中に幾つかの人格を抱えるに至ったトラウマの重さには同情も出来るから、やはり安易に責められないような気がした。

何より、ハリウッドまで巻き込んで世界を熱狂させた彼女の才能は確かに凄いと思うから。

ドキュメンタリー映画では、「アートだから、フィクションだから許される」という彼女の開き直ったような言い分に痛快さと説得力を感じたけれど、今作のラストでローラが切々と語った言葉には、真摯に胸に刺さるものがあったと思う。
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