ブラックユーモアホフマン

サマーフィーリングのブラックユーモアホフマンのレビュー・感想・評価

サマーフィーリング(2016年製作の映画)
4.0
初ミカエル・アース。

ほとんどセリフ無しに、物語の始まりを告げるある出来事が起こる瞬間を驚きをもって届ける冒頭から掴まれる。

ベルリン編、パリ編、ニューヨーク編と、遺された人々の喪の年月を大胆な省略を巧みに用いて語る。

少しロメールも想起するような。でも意外とカメラが動く。ステディカムの多用が吉か凶か。そこは好みかな。僕はもっと三脚立てて撮って欲しかったかも。

物語は淡く大人しく、劇的な展開は何も起こらない。静謐で上品。喪失の哀しみと前に進む希望とが静かに語られる。

だからこそカメラはもっとピタッと止まっててよかったんじゃないかとも思うけど、都市の風景を映すカットがとても良くてどれもグッときた。

音楽もちょっと鳴りすぎかな、とうるさく感じるところも無くはなかったけど、良い曲だった。

ニューヨーク編で主人公の幼なじみ役で出てくるジョシュア・サフディ。弟のベニーが俳優としても活躍してるのは知ってたけど兄貴もやってたのか。そしてまたこれが良い味出してんだよなー。ズルいなーこの兄弟。

最近「人を呪わば穴二つ」って言葉について真面目に考えていた。
人を呪ったら、呪った人にもその呪いは返ってくるよって意味だけど
呪いたいほど憎い人がいるってことはその呪いをかけたい人は、きっと呪いたい相手によほど嫌な思いをさせられたんだろうと思う。
でも殺したりできない。明らかな嫌がらせもできない。そんなことしたら自分が悪者になってしまうし、そもそもそんな奴に使う労力や時間が勿体ない。
だからせめて”どうか頼むから不幸になってくれ”と願うしかない。呪うしかない。
そういう切実な状況なのに、呪いをかけた人がその代償を払わされるなら、呪う人は2回嫌な目に遭って、呪われる人は1回しか嫌な思いをしないじゃないか。(呪いの効力が本当にあるなら)それは理不尽だ、フェアじゃない、と思ったんですよ。

そこで、こう考えれば辻褄が合うと思った。呪いたいほど憎い人ができてしまった人はその時点で呪いをかけられている。逆に言えば、呪われてしまうような人は、自分のことを呪ってやりたいと思ってる人に過去にしたこと、それこそが”呪う”という行為だったんだと。
それなら、呪い呪われる関係は1ターンで終わる。そういうことじゃないかと。

とても話が長くなりましたが、つまり人に何か嫌なことを言うとか、嫌なことをするとか、そういうことも”呪い”なんだと。
しかし逆に、ちょっとした言葉や行為で人を救うこともできるんじゃないかとも思う。普段はあまりそうは思えなくて、呪いをかけてしまっていないか、こんなこと言ってもこの人には何も響いてないんじゃないかと心配になることが多いんだけど、この映画を観てそう思えた。
離婚する夫にこれから会いに行くというゾエに彼がかけた「きっと楽しい時間になる」という言葉。現実には楽しい時間にならなかったとしても、その言葉はきっと彼女のことを救ったと思う。そして僕も人にそんな言葉をかけられるようになりたいと思う。あくまで自然に。わざとらしくなく。

【一番好きなシーン】
・冒頭
・レモンペーストの瓶を探しに行ったけど無くて泣き出してしまう同僚。
・バーで、ホバークラフト椅子みたいなのに座った客がすーって画面に入ってくるところ。
・ビーチの上でグライダー?がいっぱい飛んでるところ。
・石造の真似をする酔っぱらいおじさんたち。
・姉の営むリサイクルショップみたいな店のシーン。