風の旅人

A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリーの風の旅人のレビュー・感想・評価

4.0
「静謐」という言葉が似合う映画。
登場人物は必要最小限の台詞しか喋らず、幽霊となった夫C(ケイシー・アフレック)はただそこにいるだけで、妻M(ルーニー・マーラ)を一方的に「見つめる」ことしかできない。
まるで観客が映画の中の出来事に関われないように。
Cが佇む部屋で、Mが黙々とパイを食べつづけるシーンは今作のハイライトの一つだろう。
フォークが皿にぶつかる音に物悲しさを覚えた。
Cの時間は死んだ時点で止まり、Mの時間はCに関係なく流れていく。
CはMが引っ越しても、Mと過ごした家を離れられない。
住人が変わっても、家が取り壊されても、新しい建物が建っても。
もはやCには過去・現在・未来という概念は存在せず、Mとの思い出を永劫的に彷徨う。
Mが残したメモの内容は観客の想像に委ねられている。
タイトルに「The」(定冠詞)ではなく「A」(不定冠詞)がついているように、この物語は観客それぞれの人生と響き合い完成する。
風の旅人

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