プリオ

羅生門のプリオのレビュー・感想・評価

羅生門(1950年製作の映画)
4.5
真顔から狂気的な笑顔、恐ろしい蔑みの目、女の豹変具合。顔芸が、すごいのだ。

1950年の映画に関わらず、今でも通用するカメラワーク、音楽、会話劇。いや、逆か。この映画が、黒澤明が、日本映画の基礎であり、現代の映画に影響を与えているのだろう。 

二転三転どころか、四転五転するストーリー展開に、引き込まれる。

人間の醜い部分を明瞭に徹底的にシンプルに描いた映画だ。道徳の授業で流すべきだろう。「真理は人それぞれ」と問いた相対主義で有名なプロタゴラスを思い出した。

人は自分本位で都合のいいように物事を捉える。記憶とは、いくらでも作り変わるものなのだ。一人の人間でさえ定かでないのに、複数の人間が各々の色眼鏡で見たことを話し、真実があやふやになっていく過程は、記憶の不確かさを強烈に露呈する。そして、人の脆さも。

ときどき人は、相手の言い分や存在を認めることができなくなる。それは、肉体的な死ではなく、精神的な死=自我の崩壊を引き起しかねないからだ。人は事実を歪めて捉えないと、とても生きていけない、か弱い生き物だったりする。

誰かが言っていた。
ヨーロッパは溝口、ハリウッドは黒澤と。
その言葉をやっと飲み込むことができた。
壮大な音楽、巧みで動きのあるカメラワーク、少々オーバーな役者の演技は、ハリウッドには受け入れやすかったのだろう。

実は三船敏郎という存在を初めて知った。名前はどこか聞いたことはあったが、映画を見るのはたぶん初めて。画面越しにまでオーラを放つ役者だと感じた。少し伊藤英明に似ている気がした。あと、女は小池栄子。

最近のそこらへんの映画より、見やすいし、面白い。「50年前の映画だから」、「白黒だから」という偏見は取っ払った方がいい、と強く感じた。普遍的なテーマをうまく映画に昇華できれば、それは時代を越えるのだろう。
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