ぶみ

羅生門のぶみのレビュー・感想・評価

羅生門(1950年製作の映画)
1.5
むせかえる真夏の草いきれの中で繰り展げられる盗賊と美女とその夫の、息詰るような愛慾絵巻!

芥川龍之介が上梓した短編小説『藪の中』を、黒澤明監督、三船敏郎、京マチ子、森雅之等の共演により映像化したドラマ。
ある武士が殺された事件を、関係者がそれぞれ違う視点で証言する姿を描く。
よく、一つの出来事を異なる登場人物の視点で描かれる作品を、「羅生門方式」や「羅生門構造」「羅生門効果」等と形容されることがあるが、恥ずかしながら、その発祥となる本作品を観たことがなく、今回NETFLIXでの配信終了が近づいていたため、初めて鑑賞した次第。
加害者である盗賊・多襄丸を三船、殺害された武士・金沢を森、金沢の妻・真砂を京、遺体の発見者である杣売りを志村喬、生前の金沢夫妻の目撃者である旅法師を千秋実、杣売りと旅法師から話を聞く下人を上田吉二郎が演じているほか、本間文子、加東大介といった往年のスターが登場しており、登場人物は、ほぼこの八人のみ。
物語は、平安時代の京の都を舞台とし、関係者として検非違使に出頭していた杣売りと旅法師が、取り調べの様子を、たまたま雨宿りをした羅生門の下で下人に話すをいうスタイルで進行。
取り調べでは盗賊、真砂の証言が食い違っているのに加え、既に殺された武士の証言をどうするのかと思っていたところ、巫女が呼ばれ、武士の霊を呼び出して証言させるという、トンデモ展開に。
また、盗賊が真砂を手篭めにするというシーンもあり、前述の展開もあわせ、思いのほか、衝撃的な内容となっている。
ただ、本作品では、同じ出来事に対し、各登場人物が証言する内容が回想シーンとして挿入され、事件そのものの映像自体が三者三様となっているのだが、それに対し、同じ構造を持つと評される作品の中で、例えば先日観た是枝裕和監督『怪物』や、廣木隆一『母性』では、対象となる事件の映像は基本同じであることから、少々印象は異なるもの。
加えて、公開された1950年当時では、今までにない展開であったのかもしれないが、もはや同種の作品を数多く観てきた身としては、そこまでのインパクトはなく、舞台演劇を見るような大げさな演技や前述のようなトンデモ展開もあって、レトロ作品の一つでしかなかったのが、正直なところ。
映画史におけるエポックメイキングな作品であることは疑う余地もなく、各種趣向を凝らした黒澤監督による映像は決して見どころが少なくないものの、私にとっては、そこまで心に響くことはなかった反面、同種の作品を観た時に、ようやく「羅生門方式」のフレーズが使えるようになった一作。

本当のことは言えねえのが人間だ。
ぶみ

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