ちろる

世界でいちばん美しい村のちろるのレビュー・感想・評価

世界でいちばん美しい村(2016年製作の映画)
3.7
2015年ネパールで起きた大地震の震源地ともなった小さなラプラック村に報道カメラマンである石川梵氏が村人の生活に密着しながら描いたドキュメンタリー作品。東京写真美術館にて鑑賞。

私はネパール大地震の震源地となったというこの小さな村のことは全く知らないし、正直いうと題名と映画ポスターの美しい星空の写真にとても惹かれただったけど、始まりから映されるのは東日本大震災を思い出す倒壊した建物や、厳しい気候の中の生活で正直美しいとはとても言い難い、村人たちの不自由なバラック生活が映し出されていた。
スコールで土砂崩れが起きるラプラック村はレッドゾーンに指定され孤立しているが、ラプラック村に留まろうと抵抗する村たちの意固地さに、「未来のある子供達にのためにはそこで住むことを押し付けるべきではない」という意見もあり、部外者の私にはそれが至極当たり前のことのよう思える。
しかし、放牧を営む家のアシュパドル君家族、地震で夫を亡くした看護師ヤムクマリの生き方、そして村人の神を結ぶ暮らしを石川監督の視点からの映像を観るうちに、ラプラック村に住む彼らがこの村だからこそ生かされ、彼らの信仰するボン教の中でしか過去から未来へ通り抜けられないような神秘的な空間であるようなこともうっすらと分かってくると、彼らが覚悟を持っていまの生を受け入れていることも伝わってくる。

「世界で一番美しい村」それはきっと「神が宿る村」ということなのだろう。
先祖からのご加護を大切にして、神が宿る大木がある村を皆で祀り、踊り歌う。
古くからある仕事を絶やすことなく文明社会に巻き込まれないように、いま目の前にある現状を受け入れながら、生を営む。
文明社会に取り込まれてしまった私たちには到底辿り着けない美しくて、人間らしい姿がそこにはあって、石川監督が見たのは美しい村ではなくて、神に抱かれながら今ある生を受け入れる美しい姿を彼らの中にみて思ったのかもしれない。
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