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最高に素晴らしいことのdalichokoのネタバレレビュー・内容・結末

最高に素晴らしいこと(2020年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

タイトルの美しい場所がラストで次々と映し出されるが、ことのほかこれらのシーンの美しさに圧倒される。プライベートコースターであり、靴が吊るされる木、”before I die...”の壁、ふたりで飛び込んだ川や最後の教会。しかし何より冒頭のシーンに出てくる橋だ。この橋のシーンが全てを語ろうとする。日本題の”こと”ではなく、この映画は”場所(Place)”を伝える映画だ。
印象的なオープニングだ。飛び降りようとする少女バイオレットとジョギング中の少年フィンチ。この二人が出会う最初のシーンがいい。少女は姉を失い、少年は何かを秘めている。それぞれ傷を背負った若い二人の一瞬の恋愛を伝える。

とにかくエル・ファニングが素晴らしい。というか、彼女の映画をずっと見てきた者としては、彼女の成長が自分の娘か孫を慕う気持ちに近いのだ。『バベル』ではまだ小さな少女だった彼女は、この映画ではすっかり大人である。大人ではあるものの、自分の運転中に姉を亡くしたトラウマを抱える妹を演じる。
彼女の自殺を止めた少年フィンチは、カウンセリングに通う何かを抱える少年。時に明るくふるまうが、ときどきふといなくなる。そんな彼がバイオレットを救おうと必死に生きる物語だ。彼の抱えるトラウマはどうやら父親の暴力らしい。
この二人がときに愛し合うのだが、フィンチはどうしても社会に溶け込めず、最後にバイオレットと過ごした美しい川に飛び込んで自殺する。しかし彼は自分の存在を形に残そうと、最後に教会にメッセージを残すのだ。フィンチに救われたバイオレットがやっと自立したのは、フィンチが死んでからなのである。

この物語は、孤独を示している。『somewhere』や『ジンジャーの朝』でエル・ファニングが親との接点で悩みぬいたこと。あるいは『アバウト・レイ』や『20センチュリーウーマン』で自分のアイデンティティと親との距離を探る旅にたどりついたのがこの映画だとすると、若い彼女が自らこの映画の製作に携わり、自ら主役を演じる決意をしたことは説得力がある。

映画は病んだ若者の環境(周辺)を美しく描き、白人少女の主人公を中心としながら、黒人の少年や少女とを交流させて見栄えをよくしているが、これはかなりエリートである。上流階級だ。実はもっと深く偏見と格差が広がっているアメリカ社会においては、この映画はあまりにもライトであろう。主人公の黒人少年は亡くなるが、もっと深刻な現実がアメリカには存在するはずだ。

この映画そのものは、青春映画として見栄えよく作られているが、欲を言うと表現(セリフ)がくどいと思う。もっと言葉ではなくて、何かを伝えることが映画なら可能なのだと思う。

それでもエル・ファニングの素晴らしい見ごたえのある演技を堪能できたのはうれしい。
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