Inagaquilala

クリミナル・プラン 完全なる強奪計画のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

3.9
最新のスペイン映画を連続上映する「シネ・エスパニョーラ2017」にて観賞。いわゆる銀行強盗ものだが、この作品の特記すべき設定は2点。まず捜査官自身が、未遂に終わった強奪計画を再度実行するという点。それと通常の金庫破りとは「逆の方向」から、これに挑戦するという点だ。この2点がこの作品の最大のセールスポイントだ。

詳しく書くと、ネタバレになってしまうので、まずは途中まで。主人公のヴィクトルはマドリッド警察に身を置く捜査官だが、半年前に死んだ一匹狼の強盗になりすまして、凶悪なロシアン・ギャングに接近する。ギャングたちは、銀行から3000万ユーロの強奪を計画しており、ヴィクトルもプロの金庫破りとして計画に参加するが、実行直前にアジトが特殊部隊に急襲され、一味は壊滅。ヴィクトルは潜入捜査官の役目を果たし、めでたしめでたしのはずだった。

しかし、警察はヴィクトルとギャング団を繋いだ人物の逮捕を彼に迫る。銀行強盗にもひと役噛んでいたその人物は、実はヴィクトルとは昔から昵懇で、深い絆で結ばれていた。彼を差し出せという上司からの命令にヴィクトルは煩悶するが、ある計画が彼の頭に浮かぶ。それは、計画されていた銀行強盗を今度は彼自身が本当に実行するというものだった。

物語の前半は、主人公の潜入捜査官としての活躍を描いていくが、後半は一転、警察内部でのせめぎ合いと男同士の絆の物語へと変わっていく。前半、ギャングものでよくある、ありきたりの展開が続き、少々眠気も催すのだが、後半に入ると、俄然、スクリーンから目が離せなくなる。

そして最後は意表をつく銀行強盗のやり方に驚く。その強盗現場でのサスペンスの盛り上げ方も、まことに人間くさく、一瞬、「真夜中のカーボーイ」のジョン・ボイドとダスティン・ホフマンが頭をかすめた。

主人公と彼にシンパシーを抱く警察上司とのウイットに富んだやり取りも楽しく、全体の演出としても、とても洒落た味を出している。唯一と言ってもよい、主人公と交渉を持つ女性とのエピソードも、男臭いこの物語に一点の華やかさを与えている。

原題は「Escape Plan」。こちらのほうが、作品の核心をついたタイトルだ。わざわざネタバレのような邦題をつけずとも、「エスケープ・プラン」でよかったのでは。そこにこの作品の最大の見どころもあるわけなので。

この作品は2016年製作のものだが、近年スペイン語圏の映画の水準は高い。実力のある映画人も多数輩出している。「シネ・エスパニョーラ2017」、全5本、コンプリートする必要があるなと、この作品を観て思った。
Inagaquilala

Inagaquilala