しの

きみの鳥はうたえるのしののレビュー・感想・評価

きみの鳥はうたえる(2018年製作の映画)
3.5
話はどうってことないが、モラトリアムの危うい幸福感とそこに浸る人物の映し方は巧みだった。ちゃんと気怠さを捕らえているので永遠を感じさせるが、3人を同一画面に納めない撮り方が変化と終わりを予感させる。主人公が好きじゃないがあのラストシーンは素晴らしかった。

物語に意外性や新鮮味はなく、キャラクターも魅力的とまではいかないので、やっぱりこれは彼らの青春が流れてゆく様を、函館の街並みとともに一歩引いて眺める作品なんだろう。ややお行儀よく感じたので、欲を言えばもう少し外で飲んだくれて欲しかったけど。

「一歩引いて眺める」という観点から言えば、3人の撮り方は効果的だったと思う。なるべく同一画面に納めず、1人ずつまたは2人と1人に分けてバラバラに映す。あるいは画面外に話者を置く手法もそうだ。卓球をする2人と眺める1人、しかもその2人も1人ずつしか映さない。やや一辺倒な気はしたが、客観的な視線が変化と終わりを予感させる。

「世界のことをどうでもいいと思ってる系」青春映画主人公は正直凡庸だし、「実はこんな内面が…」というキャラ描写もさすがに役者の表情に託し過ぎなのでなんなら薄く感じた。自転車のシーンでもっとやれと思ってしまったくらいには因果応報で単純な話なのだが、ラストシーンが全部持っていくのでズルい。あれはまさに「青春の終わりと人生の始まり」だった。世界に興味がなく、時間の流れに身を任せ、「どうとでもなる」と受け身で生きてきた主人公が、初めて無為に流れる時間から脱し、主体的に人生を歩み出す。夜と朝、嘘と本当、誠実と不誠実。積み上げられた全てがこの一点に集束する。

予感が最後に爆発し、物語の終わりと関係性の終わり、そして夏の終わりが重なるのは綺麗だった。逆に言えば、あのラストが無ければ厳しかったかも。
しの

しの