青二歳

支那の夜 蘇州夜曲 前篇の青二歳のネタバレレビュー・内容・結末

支那の夜 蘇州夜曲 前篇(1940年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

支那の夜前編。長谷川一夫&李香蘭主演。李香蘭には満州映画協会専属のクレジット。山口淑子名義も。ここの部分は戦後公開フィルムでしょうか。プロパガンダという評価は分かるが、戦争の正当化だ中国進出の正当化だという批判は違和感。そうか…?まぁ1939年〜1945年の6年間の作品は基本的にケチつけられてばかりですからそうした評価は差し引いて見よう。

上海統治下で、統治者の男が、被統治者の女を支え導くという物語なので、中国人から見たら嫌でしょうしそれを正当化というんならそれはそうなんでしょうけど…例によって戦時下の邦画は戦争の悲劇性を真正面から描いています。それだけで当時の映画人や観客の理性を感じますが。(悲劇ばっか)
李香蘭は自宅跡の瓦礫に立ち日本への憎しみをぶちまけるし、そもそもその瓦礫もロケで戦渦の傷跡をそのまま写すし。

ロマンスなので男女の仲は収まるところに収まりますが、今作を観て感じることは、戦争によって多くの人が悲劇を背負い、戦下にあって立場も様々、それぞれが複雑で多層的な感情を抱えているんだという至って理性的で普遍的なメッセージでした。出来ることなら戦争が無ければこんな想いをしなくて済むのに…というシーン多数。
しかも上海統治が始まった頃ですから、男女のロマンスにおける二人の信頼関係になぞらえて、日中で色々わだかまりはあるけど乗り越えられるに違いないという未来志向のピースフルなメッセージでは…?と感じます。もちろんそれは統治者の理屈で、中国人からしたらフザケンナという所でしょうけれど…でも「中国人は敵だ!」と煽ることなく、日中は対話が可能で、分かり合う可能性があり、争わず共に歩もうっていうのは未来志向以外の何物でもないよね…(これをプロパガンダであると批判する人たちは長谷川一夫を日本、李香蘭を中国に置き換えてすべての台詞や設定を読み込むんですよ…)
第二次世界大戦の欧州で、支配下に置いた都市や国あるいは植民地を舞台に、こんな能天気な映画作るのか…?ナチスがワルシャワ制圧してこんな映画撮るか?よりによってゲットーロケで“永遠のユダヤ人”('40)とか製作してますがな…

そりゃ戦争を終えて中国は中国、日本は日本で独立できるのが当時の双方の理想でしょうけど、当時の中国のボロボロの政府じゃ欧米に食われて終わりだし、戦争を終わらせるということは講和の場を設けるっていう政治の話ですよね。製作当時の中国とじゃまだまだムリでは…?そう考えたらこの映画のシナリオは当時の状況で出来るだけ前向きな設定という気がします。批判する方々は、この“前向き”ってのが日本側の言い分に過ぎないだろと批判されているんでしょう。そら戦後だから言える事で、当時にあっては至って理性的だと思いますがねえ。
戦中の邦画らしく、戦争の悲劇性てんこ盛りで、その意味じゃ至る所に散らばる反戦メッセージが隠しきれてませんし。それは今作に限ったことじゃありませんが。陸軍海軍監修の映画でさえ悲劇多いし。
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