ぽん

マザー!のぽんのネタバレレビュー・内容・結末

マザー!(2017年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

旧約聖書がモチーフらしいが、シャマランの「ノック 週末の訪問者」(2023)もそうだったけど、聖書の内容をパッチワークの布切れみたいに利用してるだけって気がする。宗教風味で禍々しさを演出したかったのかなーと。

ハビエル・バルデムがガラスの欠片(かけら)を大切そうに台の上に置くと、黒く煤けた屋敷がパーッと明るく色づいていく。湖水に投げた石の波紋が広がっていくように。
死体かな?と思ったベッドのふくらみが急に生気を帯びて、若妻ジェニファー・ローレンスとなり起き上がってくる。
そんな出だしに、これは全部、男(ハビエル)が創り上げた創造の物語なのかな?と思った。

突然の客、エド・ハリスにその妻ミシェル・ファイファーはこのお屋敷を引っ掻き回し始める。終いには息子たちまで現れ、ケンカ騒ぎの末の死。
お騒がせ一家が出て行ってようやく平和が訪れたかと思えば、一家の友人親戚らがわんさと押しかけてきて、亡くなった息子の弔いパーティが始まる。これがなんとハビエルが招待したって言うんだから、もうバカなの?って感じ。苦笑

で、傍若無人な客人たちが家を壊し、ジェニファーの怒り爆発。当たり前だ。てんやわんやのパーティがお開きになった後、夫婦は本音をぶつけ合い大げんかの末メイクラブ。もうバカなの?(再び)

雨降って地固まるじゃないけど、こんな事があったおかげで創作意欲を掻き立てられ、新しい着想を得たハビエルは新しい詩を書き、それがバカ売れ。なにそれ。
ジェニファーも妊娠して万万歳・・・だったんだけど、ある晩、取材陣だのファンだのがまたしてもこの屋敷に押し寄せてきて、ここからの混乱ぶりがホントにしっちゃかめっちゃか。

途中までは「アクは強いけど案外フツーのドラマなのかな、それなりに整合性はとれてるかな?」と思ってたけど、ラストの40分くらいで「いや、これはマトモに考えちゃいかんヤツだ」と我に返った。

アレゴリー(寓意)に満ちた物語なので、どう見るかは観客次第ってとこじゃないでしょうか。
私はこれ、アレノフスキー監督の「告解」なのかなって感じがしました。告解ってのは罪の告白ですね。以下、私の勝手な“アレノフスキーかく語りき”笑

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ハビエルは僕自身。で、自分の表現活動・創作活動を献身的に支えてくれる人物がジェニファー。(具体的に誰なのかは分からない)
そして自分が作った作品や、アーティストたる自分を褒めたたえて群がってくる大衆がいる。嬉しいので、僕は彼らに自分の全てを開示しようとする。僕の想いを共有してくれと。でも、結局、彼らが自分に近づいてくる目的は、利己的な理由。
「楽しませてくれ」「何かを与えてくれ」
彼らは「感動した」だの「救われた」だの言いながらも、作品を自分たちの好きなように消費して蹂躙して最後には僕を傷つけメチャクチャにしていく。

芸術は尊いと思って、その力を信じて創作を続けている自分だけど、世の中にはびこる悪や暴力、紛争、そして死、そういった事柄に対しては芸術なんて無力かもしれない。
美しい創作物が、実際に血を流し飢えて苦しんでいる人間を現実的に救うことは出来ない。そう考えると、この身を業火で焼き尽くさんとばかりにヘコんじゃう。

だけど、そんな中でどこまでも自分を信じて、自分を支えてくれる人がいる。いや、それは人ではなくて何かなのかもしれない。どん底の中にあっても、アーティストたる自分に命を与えてくれるもの、たった一つキラリと光るガラスの欠片のような希望、そんな物がある限り、僕はまた新しい作品を作り出す。
こんなナイーヴで傲慢でひとりよがりな僕ちゃんでごめんね。てへぺろ。

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私はけっこう面白かったです!ジェニファーが「キックアス」(2010)のヒットガールばりにバッタバッタと客人たちをやっつけていくシーン大好き。
もうねー、家を汚す輩は許せませんよ、主婦としては。自分で片づけやがれ。
ぽん

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