緑青

ウィンストン・チャーチル /ヒトラーから世界を救った男の緑青のレビュー・感想・評価

3.4
「終わり良ければすべて良し」と宣ったシェイクスピアは正しい。映画としては大変おもしろかった、ロゴの使い方や撮り方がカッコいい、ただ、これを「チャーチルはすごい」と評価してはダメだろう、と脳内に警告音が鳴った。あまりにも当然のことながら、イギリスが戦勝国であるという前提抜きには語れない作品だった。

チャーチルが首相になった時からもう「負け戦」が確定していて、カレー港の兵士を見捨てる他に取れる手段が停戦合意しかなく、その前に行えたかもしれない全ての手立てを彼が取りようがなかったことには確かに同情する。しかし、私は「うっかり」上院議員に肩入れしそうになった。情報も全て見えているなかで、できうる限り人々の無駄死にを避けようと思えば、彼らの提案は決して「正しくない」とは思えなかったのだ。チャーチルはそういう意味では状況の見えていない市民から「逃げる恥を晒すくらいなら戦って負けて死んだほうがマシ」というセリフを引き出し、大げさに訴えて下院議員を焚きつけ、自分の意思を通し支持を確かなものにする。観ていて、無意識にゾッとした。最後だけ「そして1945年8月15日、こちら側の無条件降伏を告げる放送が流れた」などと差し替えれば、これは「日本」の映画になるのではないか。当たって砕ける潔さで凄まじい数の人間を死に至らしめた日本にとっての戦争と重なるのではないか。その違いは「戦争に勝ったか負けたか」だけだったのではないか……

この映画がチャーチル讃美ではなく、厳しいメタ的な皮肉をはらんでいるものだとするなら、イギリスは流石だと唸らざるを得ません。
辻さんの特殊メイクは「肌」そのものでした。
時代によって正しさは変わってしまう、時折見返して自分の位置を確かめるべき映画かと思います。
ぜひ。
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