MasaichiYaguchi

29歳問題のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

29歳問題(2017年製作の映画)
3.8
香港で上演された舞台劇を12年間演じ続けたキーレン・パンが監督と脚本を担当して映画化した本作を観ていると、国や性別、背景となっている時代も違うけれど、30歳を間近に控えた頃の自分自身が蘇ってくる。
物語は、化粧品会社に勤めるクリスティ=ラム・ヨックワンが30歳の誕生日まであと1ヶ月というところから始まるが、私の場合はそのタイミングで結婚して人生の転機を迎えている。
本作には彼女と同年齢の女友達が何人も登場して、夫々仕事や恋、結婚、そして家庭生活を謳歌しているように見える。
そして或る事情で引越しを余儀なくされたクリスティは、一時的に借りた家の主で、偶然にも彼女と生年月日が同じのウォン・ティンロに関心を抱いていく。
ティンロがパリ旅行で留守中にクリスティが家を借りているので、家主と店子との直接的な交流はないが、ティンロが部屋に残した或るものを通してクリスティは家主の人となりやその過去を知り、心を通い合わせる。
私がその当時、結婚で転機を迎えたように、迎えた状況は違うが、2人のヒロイン、クリスティやティンロも夫々大きな人生の転機を迎えている。
30代ともなれば、会社では中堅として部下や年下の社員を引っ張る役割を担われ、プライベートでは結婚を意識して将来の家庭像を具体的に考えたり、年老いていく両親のことに思いを馳せる年代だと思う。
ただ、人生は自分が思い描いた「未来予想図」のようには運ばない。
だから、2人のヒロインが抱えた問題による挫折や葛藤が痛い程分かる。
物語が進むに連れて、容姿も性格も違うクリスティとティンロが交錯して重なっていく。
思えば、本作はキーレン・パン監督が舞台で1人芝居していたものを映画化したのであり、クリスティとティンロという2人の女性はコインの裏表のような存在なのだと思う。
だから終盤に向かうに連れて如何にも演劇的になっていくが、本作は他者の生き方と自分のそれを合わせ鏡のように覗いた時、自分の来し方行く末が見えてくると語っているように思える。