ちろる

誰がための日々のちろるのレビュー・感想・評価

誰がための日々(2016年製作の映画)
4.1
『人生の全てを外注できるか?』
この台詞が頭の中を反復した。

介護、うつ、経済格差、親子問題と、お国が違えどもどの人間にも決して他人事ではない重い重いテーマがこの作品を暗く覆うが、とにかく躁鬱を患い、結果的に母殺しをしたトンを演じたショーン・ユーの鋭い表情から目が離せなくて、静かなのに辛いけどトンを絶対に見届けなければいけないと思う気迫がある。
妻の介護を押し付けた後ろめたから、精神病院を退院した息子を受け入れる父ホイを演じたエリック・ツァンの道化のような空回りの父親像もお見事である。
たった二歩で全ての事が済んでしまうような、驚くほど狭い部屋は、社会の片隅に押し込められて身動きができない2人の人生のよう。
ぎこちなくも家族としての関係をどうにか再生させようとする現在と、見ているだけで逃げ出したくなるような、トンの病気の母の介護をしていた過去はどちらも身につまされる想いになる。
邦題の「誰がための日々」はこの作品にしっくりとはまり、誰もが皆自分ではない「誰か」のために人生を捧げる、あるいは奪われてしまう時間あるのだということを示唆し、あなたには、彼らのようになっても、それでも生きる覚悟はあるのか?と問いかけられている気分になる。
ここに出てくる登場人物は、この父息子も、殺された母も、そして友人やアパートの住民も、それぞれ多少甘えや弱さはあっても私たちと全く変わらない真っ当な人間であり、それでも底辺から抜け出せない、あるいはちょっとの失敗で底辺に堕ちていってしまうアリ地獄のような狂った社会の世知辛さを物語っていてずっと苦しいのだけど、、、
静寂の演技で最後まで観せた二人の役者の演出は素晴らしく、だからこそラストに見えた一筋の光が美しく輝いて見えたのかもしれない。
ちろる

ちろる