Jun潤

アネットのJun潤のレビュー・感想・評価

アネット(2021年製作の映画)
3.6
2022.04.01

まずポスターのビジュアル、それから予告映像、あとはミュージカル作品ということにハマり今回鑑賞です。
フランス・ドイツ・ベルギー・日本・メキシコの合作。
第74回カンヌ国際映画祭にてオープニングを飾り、監督賞を受賞。

コメディアンのヘンリーとスター歌手のアンは恋人同士で、深く愛し合っていた。
やがて2人は結婚、アネットという子宝にも恵まれるが、2人の関係には徐々に陰りが出始める。
果たして、アネットは2人にとって、愛情の結晶か、傀儡なのか、なにかの象徴なのかー。

いや怖い。
ポスターのビジュアル的に普通のミュージカルではないことは薄々伝わってきましたが、にしても怖い。
ダークファンタジー・ミュージカル・スリラーって感じ。

導入で2人がそれぞれのステージに移動するだけなのにミュージカルを挟んだり、他にも産婦人科や警察、裁判官などの動きにもミュージカルが含まれていて、視覚的に飽きない作風だったと思います。

アネットという2人の愛の結晶が生まれたのかと思いきやその姿は不気味な人形。
そこから夫婦の成功格差が浮き彫りになり、2人の関係に亀裂が生じてくると、序盤に深く愛し合う描写があったものだから、2人の愛が人形のように空虚なものになってしまったことの暗喩なのかと思いました。

物語はそこから大きく舵を切り、亡くなってしまった母の魂が乗り移ったかのように歌の才能を開花し、父にステージに立たされるアネット。
これはやはり見た目通り操り人形になってしまったのかと思いました。

話の結末というかアネットの顛末については人間の姿を取り戻すのかと予想がついていましたが、なかなかそのようになってくれない。
ミュージカルに乗せて狂っていくヘンリー。

…いや、いつまで続く?
ぶっちゃけヘンリーとアンの船上ミュージカルがピークで、その後は最高値を更新しないまま、じわじわと小さく細かい波で描写を切り売りしていたような印象です。
メリとハリの振れ幅が小さく波の数が多かったものだから、一つ一つのミュージカルシーンは見応えがありましたが、振り返ってみると特に印象に残ったものも浮かびにくい…。
どこでも物語を終わらせられそうなところを、終わりそうで終わらない場面を繰り返していたように思えました。
140分という尺の割に、不要な場面も思い浮かばないけどそんなに長くする必要があったのかと思ってしまったり。

あとはミュージカルシーンが多いこと自体には賛成ですが、2人以上のキャラによる掛け合いよりも個人の心情の掘り下げに尺を割いていた印象で、ヘンリーの狂気やアンの憂い、指揮者が秘めた想いなどは伝わってきましたが、それらがどのようにぶつかって混ざり合ってその展開になったのか、にまで作中の描写だけでは伝わってこなかった印象です。

あとちょっと暗喩が多すぎやしませんでしたかねぇ。
その割にヘンリーに捜査の手が及んだり裁判や刑務所の様子は描写するというチグハグ感…。
しかしタイトル横に出た三日月と子供の横顔が合わさって丸になっているマークが、月に照らされ出てきたアンの魂とアネットのことかと思わせてきたのは個人的にグッドでした。

日本が製作に関わっていたとは知らなかったので、古舘寛治と水原希子を見つけた時は嬉しかったですね。
Jun潤

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