ちろる

ハートストーンのちろるのレビュー・感想・評価

ハートストーン(2016年製作の映画)
4.4
海から上げられたのに食べられる事なく腐っていく魚たちのように、心の中に芽生えても、気づかれることのない感情がある。
ちょうど「君の名前で僕を呼んで」を観た時と似た胸がギューとしめつけられるような感覚と、「ムーンライト」の繊細さにも似ている。

この作品は映画館で逃してからずっと前から観たかったし、観るテンションを選んでいたら時間が経ってしまった。
家に誰もいない日で、しかもアイスランドの空と同じような薄暗い曇った日をみつけてようやく観ることができた。
だだっ広い自然と、果てしなく広がる海に囲まれた村なのになんという閉塞感。
観ていると、わたしもなんだか彼らの漁村の一員になったようで、少し寂しい気持ちになった。
性を意識した少年少女たちが生き生きと描かれる前半。
キスゲームして夜中にお泊り合いっこしたして、大人になりたくて、必死に背伸びをする時代を切り取っていたのに、
上手く言葉に出来ず発散しきれない感情があふれだす後半のソールとクリスティアンの苦しみが全て理解してあげられないことに私も苦しくなる。

アダムとイブが男と女であるように、聖書の綴られた時代から、男と女が組み合わさるのが人間の必然のようにされてきた。
では男同士、女同士の恋はいつどんな時に目覚めるのだろう?
押しつぶされそうになって行き場のないクリスティアンの世界にはソールが必要で、
ソールはそれを見て見ぬをする。
小さな村、他人の目、他人の常識が人をあるがままにさせるのを否定して臆病にさせる。

寒い、暗い、苦しい、
自分のことは自分が一番わかるなんて思うのは人の驕りあって、ほんとは自分のことは自分が一番知らなかったりするものなのだ。
苦しい時や辛い目にあった時に一体誰にあって誰と抱き合いたいのか?それはその時になって見ないと分からない。
そして自分が自分らしくあるのが誰といる時なんだろう?と、考えてしまった。

カサゴの使い方がなんとも詩的で何から何までアイスランド色に染まった作品なのだと実感する美しい作品でした。
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