耶馬英彦

デトロイトの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

デトロイト(2017年製作の映画)
4.0
 いまでも人種差別が日常的に続くアメリカ。その傾向は、白人至上主義のトランプが大統領になって更に助長されつつある。
 この映画は1967年のデトロイトが舞台だ。マルコムXが暗殺された後、マルティン・ルーサー・キングが黒人の人権運動をしている真っ最中である。黒人社会がそれなりの地位を獲得し、文化的にも花を咲かせつつある時期で、当時の白人社会は、黒人の社会的文化的な台頭を面白く思わない人々が多数を占めていた。それは当時だけでなく現在も同じなのかもしれない。
 アメリカはそもそも先住民族を駆逐した移民の国で、建国から300年も経っていない若い国である。文化もテクノロジーも世界の最先端だが、人々の精神性が追いついていない。去年の大統領選挙の様子や差別主義者たちの街頭暴力報道を見てもわかるように、アメリカ人は同調圧力が強く、多様な価値観を認めない。
 中でも人種差別は峻烈で、南北戦争で奴隷制度の存続を主張した南部地域は、いまだにKKKが白昼堂々と白人の優位性を元に意味不明の儀式を繰り広げている。バラク・オバマが大統領になるなど、全米ベースでは民主的になった現在でもこうなのだから、差別が激しかった1960年代は、考えるだけでも恐ろしい。そして差別する側に権力が加わると、もはや差別を通り越して弾圧となる。
 この映画の警官たちは当時の世間というものの象徴的存在だ。個々の警官が悪者であるというよりも、世の中に蔓延する差別的な空気に感染したと考える方が正確である。日本でも、軍国主義の復活の目論む暗愚の宰相や、そこかしこに見られるヘイトスピーチなどのニュースを見ると、弾圧の時代の到来が近いように思われる。人間はどこまでも愚かで、同じ間違いを無限に繰り返す。
耶馬英彦

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