ちろる

ポリーナ、私を踊るのちろるのレビュー・感想・評価

ポリーナ、私を踊る(2016年製作の映画)
3.7
私はクラシックバレエの舞台しか観たことがなく、よく分からないけれど、コンテンポラリーにもとめられるのは内面の湧き上がる情熱のようなもので、その内面の表現が無ければ観客を感動させることはできないし、上手い下手も相手次第で変わるアクの強い種類のダンスでもある。
妖精のように美しい主人公ポリーナがクラシックバレエを踊るシーンは本当にうっとりするほど美しいけれど、どこか上の空でもある。
クラシックバレエを習うものなら憧れるロシアのボリショイバレエ団に選ばれるほどの実力があり、貧しくてもプリマになることを応援してくれる両親にも期待されながら、彼女の中にある「内」と「外」が徐々にかみ合わなくなり表現力がままならなくなって飛び出してしまうのは彼女にとっては然るべき道のような気もした。
今夏に観た 「ダンサー セルゲィポルーニン 世界一優雅な野獣」ととても似ているのだけどもポリーナとセルゲィも一番多感な年齢に差し掛かり、本気で恋をして感情が不安定になることで踊ることに支障をきたしていく。
私は恋をする年齢の前にバレエを辞めてしまったので正直わからないのだけど、バレエを本気で踊る人間にとって、バレエは生活すべてであり、もしそこにだんだん恋や家族など己の感情が食い込んでいくことがあれば一気にリズムが崩れていってしまう非常に繊細なスポーツであるのだろう。
ラストに差し向かうにつれて、様々なことを背負ったポリーナにはコンテンポラリーしか残されていないようだった。
ポリーナの「内」は爆発寸前で、ラスト15分まで少しずつ積み重なった彼女の様々な感情が見事に華麗に舞う姿は本当に素晴らしい。
虚ろで不安げだった彼女の目には光が漲っていて、自分だけのコンテンポラリーダンスを見つけた彼女の未来は輝かしく光る日が来るだろう。
貧しい少女の成長物語としての側面は分かりにくいのかもしれないので、バレエやダンスに興味がない人には退屈な作品かもしれない。
ただ、ラストのダンスは本当に美しく、ストーリーはこれを見せるための序章に過ぎないと思えば、割とちゃんと考えて作られた作品なのだと思う。
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