Jun潤

シェイプ・オブ・ウォーターのJun潤のレビュー・感想・評価

4.1
2022.04.23

ギレルモ・デル・トロ監督作品。
第74回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞、第90回アカデミー賞で最多部門ノミネート、最多部門受賞、そして作品賞を受賞。

赤子の頃に声帯を切られ声を失った女性・イライザ。
彼女が清掃員として働く航空宇宙研究センターに、アマゾンの奥地から「半魚人」のような異形の生物が運ばれてくる。
その生物が宇宙研究にもたらす可能性を巡ってアメリカとロシアが対立する中、イライザは発声はできないものの音楽を理解する生物、「彼」に徐々に惹かれていく。
解剖や殺害を画策するアメリカとソ連から「彼」を救うべく、隣人のジャイルズ、同僚のゼルダ、ソ連のスパイ・ホフステトラー博士の協力を得て、「彼」を自宅に匿うことに成功する。
彼を逃すため、次の雨の日を待つイライザ、一方「彼」はジャイルズに危害を加えたりイライザと愛し合ったり、人間と怪物の間を行ったり来たり、しかし「彼」には神秘的な力があり、もしかしたら神なのかもしれない。
アメリカとソ連の追手、地上の環境に適応できない「彼」と、2人の時間の終わりは確実に近付いていた。
果たして「彼」らの運命はー。

人は人でないものと対面した時なにを想うのか。
時に崇拝し時に恐れ、時に支配し時に愛する。
異形のものとの邂逅をベースとした人と人でないもの、自分と自分ではないものの間にある愛情とその形を描いた物語。

今作で最も印象的だったのはやはりメインとなるイライザと「彼」、両者共に声を発することができず、その身振りと表情のみで感情を伝えてきたことですね。
特に「彼」はその体つきも顔つきも人のものとは違うのに、いや違うからこそ、まずは苦痛の顔から入って徐々に表出していく人間臭さにどんどん惹き込まれました。

そしてまたそのキャラとビジュアルの造詣が神秘的で美しい。
原理や背景が描かれていないことからファンタジーに寄っていますが、地上の環境に適応できない様子や、イライザとの交流から判明する能力とその描写から、崇拝され恐れられる理由が染み込んでいるキャラクターに仕上がっていました。

そして人でないものを主軸に置いて逆説的に人間を描く、これもまた王道ですね。
生物を巡り、生かして研究して自己を高めることよりも、殺すことで他者を貶めることしか考えていない国。
主要2人が喋らないからこそ、ジャイルズ、ゼルダ、ホフステトラーの他者を思いやり他者のために行動する様が強調される。
表面に見えるだけの性悪説の奥底には性善説があるという、人間の本質であって欲しいものが垣間見えました。

ギレルモ・デル・トロ監督の作品はこれで3作品目ですが、異形のものと人間の業両方を描いていて、『パシフィック・リム』と『ナイトメア・アリー』の中間のような立ち位置に見えました。
今までは日本の特撮・アニメ大好きおじさんのイメージしかありませんでしたが、今後の作品にも期待が高まりますね。
Jun潤

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