MikiMickle

シェイプ・オブ・ウォーターのMikiMickleのレビュー・感想・評価

3.6
オープニングは、美しい音楽と共にある水中から始まる。
“あの事について話そうか”とのナレーション。
“時は、ハンサムな王子の時代が終わりに近づいた頃。
海に近い田舎町で。
声を失った王女と、真実と愛と喪失の話。
そして、全てを壊そうとしたモンスターについても…”と。
その美しい映像に心を奪われる。

そして、舞台は冷戦下の1960年代のアメリカ。
薄暗い中で目覚めた中年女性イライザ。彼女はお風呂のお湯をはり、ゆで卵を丁寧にタイマーを測って茹で、その間に浴槽で自 慰に浸る。
時は夜の11時。夜勤への準備。日めくりカレンダーをめくり、後ろに書かれた「今日の言葉」を読む。靴を丁寧に磨き、隣人の画家ジャイルズと共に手作りの夜食を食べ、映画館の上にあるアパートからバスで出勤する。

イライザは過去のトラウマによって声を発する事の出来ない女性。
バスの窓にあたる雨音さえも愛おしく思えるような女性。

この、冒頭10分だけでも表現される温かさと絶妙な切なさ。細かで丁寧な表現。このオープニングだけでも何度でも繰り返し見てしまった。

航空宇宙センターに夜勤の清掃員として勤めるイライザは、おしゃべりだけれども気の置けない友人の黒人女性ゼルダと共にいつもの日課を過ごしていた。
そんな中、新任のホフステトラー博士と共に運ばれてきた生物。水中で暮らす彼は“半魚人”

彼女は次第に彼と心を通わせるようになる。
しかし、彼の命が政治的対立によって奪われると知ったイライザは、友人の力を借りて救い出そうとする……


うーん、なんか、この映画の良さを上手く伝えられなくて…… どこまで、なんて書いていいのか……

まず、イライザは、清純でピュアでありつつも性的欲望を感じるリアルな中年女性として描かれており、かつ、権力に対して屈する事のない芯の強い女性である。言葉のない分 魅せる表情に胸を掴まれる。

イライザのマイノリティーな友人と仲間も、同じように差別や偏見を背負いつつも、しっかりと芯を持っている。詳しく書かないけれど、その人物像が非常に丁寧に描かれていて……特に隣人であり親友である初老のジャイルズに関してはそれだけで1本の映画が出来るのではと思うほどで、私は彼が好きでたまらない。

ビジュアルに関しても、デルトロ監督の細かなこだわりが徹底していて。それぞれの部屋・街並み・センターに見れる美しさ。全体を緑で統一し、それは時に水中を、時に切なさと、時に無機質さとクールさと非情さと、時に生命の全てを感じさせる。そしてそこに、赤が差し色で入る。例えばイライザの住むアパートから外に出るドア、階下の映画館、憧れる赤いハイヒール、そして、彼にあってから少しずつイライザの服装に赤がはいっていく。彼女の心情を表した赤へのトキメキたるや そして、血の赤…
ジャイルズの部屋はどちらも合わさったような色で、時に美しい夕日に溢れた暖色になったり、一方 の家は黄色だけれどもとてつもない違和感を感じたり…
そんなこだわりのある色やビジュアルの軸にあるのはもちろん登場人物のそれぞれのあり方であり、メインテーマであるイライザと彼の恋である。
お互いに偏見や先入観を一切持たずに向き合う姿と、その相互作用によって本来の自分を取り戻していく姿、生まれる新たな感情と……
デルトロ監督でしか出せない反骨精神とピュアな精神と美意識を持ち合わせた、大人のための素晴らしき童話。純粋すぎるファンタジーラブストーリー。胸を締付ける 完璧なラストだった。
MikiMickle

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