Kuuta

シェイプ・オブ・ウォーターのKuutaのレビュー・感想・評価

4.4
デルトロありがとう案件。
半魚人とのやり取りの美しさに、何度も泣いてしまった。ポリコレは主題ではないと思うものの、今、この監督との組み合わせだからこそ半魚人は復活できたのだろう。万人向けではないが、長年桧舞台に立つことのなかったモンスター映画がようやく正当な評価を得た、それだけでも加点せざるを得ない。自分にとって大切な一本になりました。

声無きアウトサイダーたちは、日光の下で生きる人間よりも、孤独や疎外感を纏う半魚人に自らを投影してしまう。最後の“怪獣対決”には「そう生きるしかない」という、マイノリティとマジョリティ双方が同じように背負う悲しみが刻まれている。人間の業と社会の歪みが凝縮された異形の描写は、まさしく怪獣映画の本質だと思う。

物語が進むにつれてどんどん綺麗になる主人公イライザ。抑圧のティールと解放の赤。浮遊感のある、踊るようなカメラワーク。

形に捉われない水が壁をすり抜け、肉体を時空(社会規範)から解き放つ美しさ。風呂場に溢れた2人の思いは隙間を見つけてどんどん溢れ出し、周囲に染み込んでいく。

テレビ、映画のスクリーン、水中→フィルターの向こうの架空の世界。タップダンスのシーンからも分かる通り、イライザはフィルターの向こうと現実を繋げる力を持っている。

呪いが解けて“普通の”人間に戻る「美女と野獣」への回答な気がした。ラストはジャイルズの想像とも取れる。

魚=キリスト。女性と支援者と医者とファシストという構成はパンズラビリンスと同じ。映画館の名前はオフェリウム。

作品賞受賞は、反トランプや#MeTooといった時勢に乗った側面があるのは間違いない。監督の過去作を思えば手堅い作りであり、もしかしたら30年後まで語り継がれるような映画ではないのかもしれない。
(「あんな素敵な半魚人、惚れて当然」と思えるタイプの観客じゃないと、「愛し合う展開が性急すぎる」という不満は浮かぶとは思う)

それでも、デルトロの作家性と大衆性を大人なバランスでまとめた傑作なのは間違いない。例えばティムバートン作品で言う所の「ビッグフィッシュ」に近い印象を受けた。

となると、今後はどんな路線に進むのだろうか…。88点。
Kuuta

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