映画漬廃人伊波興一

彼女の人生は間違いじゃないの映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

4.2
敵対する事さえ困難なコミュニティに射光しようとする廣木隆一の野心
「彼女の人生は間違いじゃない」

取り立てて気取った所のない痩身の瀧内公美が灰色の海を横目に職場である役所まで軽自動車で疾走する。
彼女が出てきた住まいが仮設集合住宅であり、ひたすら更地が続くような大地から誰の目にもここが被災地であると分かります。
ここでの暮らしを余儀なくされた方々がそれまで築き上げた全てを一瞬で奪われた事実を思えば
どれだけ苛酷な状況を強いられてきたか?想像に難くありません。
事実、補償金を酒とパチンコにひたすら充てる父・光石研、
自殺を図る隣人主婦、
亡くなった方々の遺族に墓地を薦めながらも放射能の為、埋骨さえ出来ない現実に苦悩する柄本時生、
生きていること自体に自責する元恋人篠原篤に至るまで
本来なら助け合いの連帯によって形成された筈の仮設集合住宅なのに、敵対さえも成立するのが困難な状況に成りかねない不本意なコミュニティを招いてしまいます。
彼らそれぞれが光を求めていくさまが収束されるのは蓮佛美沙子演じる写真家の「きおく」と題した写真展。
廣木隆一はその推移の描写にいささかのペシミズムも見せず、むしろお互いが手に負えないような振舞や、自暴自棄な言動などが却ってコミュニティの崩壊を救っているようにも生々しく感じさせられる瞬間は爽快の一言に尽きます。

人はどんな状況にも耐え、生き抜くチカラと本能がある。と聞こえてきそうな謳歌であり、前作「さよなら歌舞伎町」からより精度が増したような群像劇です。

「君の名は。」や「銀魂」がヒットするのが悪いというのではありませんが、玄人の誇りに満ちたような廣木隆一作品を敵視するどころか、これらの挑発に抑圧さえ感じない若い作り手が近頃の日本映画界に増えつつある気がするのは私だけではない筈です。