eiganoTOKO

彼女の人生は間違いじゃないのeiganoTOKOのネタバレレビュー・内容・結末

4.3

このレビューはネタバレを含みます

惜しいけど傑作。
感傷的な箇所はもっと抑えても十分伝わるのになって思った。
テーマからすると難しいだろうけど、デリヘルをしてるのが自傷ぽく描かれるのは余計だと思う。
世間様がどうしてもセックスワーカーを見下したりする原因の強化になるから。
そうは言っても、悲惨さよりも、働く人としてマシな描き方だったのは良かった。

そのほかの描写は、現実味溢れる一般の人たちだった。当然幸せに暮らしてる人もいるだろうけど。
問題を丁寧にあつかった真摯な撮り方、それが素晴らしい。
目を背けないで、今福島がどうなってるか、知っておくために絶対見た方がいい映画でした。
共感できない、とか言ってる人もいるけど、当たり前でしょ。
共感できる、なんて言ったら嘘だよ。
福島の友達から聞いたことある話は、どこか都市伝説のような本当の話。
それが映像になるから現実として迫ってくる。いらないエピソードなんてひとつもない。だってそれが今の福島なんだから。
監督が福島出身と知り、この作品の熱量の意味がわかりました。

夜ノ森の桜、車、防護服から始まる。
福島の有名な桜。
仮設住宅で暮らしてる親子の愚痴が辛い…。お父さんへの娘の態度がむちゃくちゃ塩対応なんだけど、まじで何回言うねんて話とか、働かないことにイラつくのわかるからリアル…だけど複雑な事情だから父ちゃんも辛くて泣く、しくしく。
奥さんは津波で亡くなってて、農業や漁業はうまくいってない、というか廃業に近い描写がリアル。補償金をもらってパチンコに入り浸る人がいると聞いたことあるけど現実なんだなあ。本当に楽しいわけないと思うけどね、働けないことは辛い。
でも誰も住民を責められない。
というか責めるなら夢のエネルギーと嘘を並べて、無理やり原子力発電を進めてきた国と東電だろう。
福島に住んでる人は原発賛成してたって指摘もあるけど、結局騙す方が悪いんだから。

空撮でわかるのは、どこからどこまで津波で流されたかくっきり分かれてる。
流されなくても住めなくて荒廃した街並みもあとで写されて、その対比がまた悲しい。
綺麗に並べられているけど、まだまだ続く除染土のフレコンバッグが不穏。

セックスワーカーで出稼ぎ?する主人公。
女子高生のコスプレプレイ。
日本人は好きだねえ…本物の未成年には手出すなよ?プレイを楽しんで…。
仕事の最中、客にきちんと歯ブラシさせるとかその辺はちゃんと描いてほしいな。
いきなりクソ客描写かあ…。
でも電話したらちゃんとスタッフが駆けつけてくれるんだね。
事情は関係ない。「仕事だから!」「俺の仕事は怖い目に合わないようにあんたたちを守ること」
「あんただけが特別なわけじゃない。うぬぼれんな」
どんな仕事もご安全にね!セックスワークは仕事ですからね!

人間のいろんなところ、良いところも悪いところも見られるからこの仕事好き、という高良健吾が自然で良い。
でも子供生まれるから辞める。
「デリヘルなんて長く続ける仕事じゃない」なんて、働いてる当事者に言っちゃだめだよ。
主人公は家族にはほんとのこと言えてない。言えるような世の中になるといい。
デリヘルなんて…という言葉の積み重ねで、彼女たちは悪い烙印を押されてしまう。
「田舎のデリヘルはババアばっかだけど、やっぱり渋谷は違う」このセリフもほんと無神経だからやめてくれ…。
若くていいと褒められて、嬉しいとでも?
自分も貴方も老いるし。
乗らない主人公えらい。というか、「田舎」出身なら複雑だわ。
元カレにはカミングアウトして「俺は平気だよ」って台詞泣ける。
ちょっと感傷的だけど。

突然なぜ壺…と思ったけど、これも聞いたはなし。みんな不安で悪徳商法やカルトが隙を狙って派手に動いてると。
リサーチしたんだろうな。
てかほんと最悪なやつらだよ弱みに付け込む輩!

独特の間があるのだけど、台詞のひとつずつの意味、例えば自分の母親がみつからなかったら…などと考えられる時間の流れ方。これがハイスピードだと、日常を感じられないのでこの映画のテーマならではの間でよかった。

「今更気づいた。好きな人とデートしてることが大事なんだって」
震災後、みんな思ったよね…。被災してなくても。
ふだんの幸せがどれだけ大事か。
人といることを考え直した。
ふつうの台詞がこんなに響くのは、東日本大震災と福島第1原発事故、どちらの被害も受けた福島が舞台だからというのも大きい。忘れちゃいけないんだよ。

震災のこと、5年も経ったから、と東京の人間がずけずけ聞くなよ〜怒
がんばれってスローガンのエグみ…
がんばってるよね…

役者陣がみんないいね。
いそうだもん。
特に特徴がないというか。
キャラ立ちそこまでしてないというか。
そうじゃなきゃ、被災地じゃない人には届かない。
ダークツーリズムじゃないから、必要以上にドラマチックにしちゃだめなんだよね。
特に主人公の瀧内公美さん。
表情が全部ちがくみえるから、どこかにいる誰かなんだなって思えてくる。
有名女優だと、カメレオンじゃない限りこの感情操作は難しい。

海に奥さんの冬服を投げるシーン、すごく綺麗で、でもすぐそばに原発があって。
辛かった。

汚染水の仕事に対して誹謗中傷があり、「命を削ってでも働かなきゃいけない」なんて言わせてさ。国がぶっ壊した人の生き方、ほんとに様々だけど、人間ひとりずつ。ちゃんと見られた気がする。
人がいるんだ。そんな当たり前のことも、映像で見ると、あらためてこれは現実なんだ。まだ始まってない場所がある。
風化させないって単純で聞き飽きたコピーだけど、映像や写真で残すことの重要性、この映画はそれを改めて強く思いだせるものだった。
彼女の人生も、彼の人生も、絶対に間違いじゃないって思えた。
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