ゆずっきーに

ボヘミアン・ラプソディのゆずっきーにのネタバレレビュー・内容・結末

ボヘミアン・ラプソディ(2018年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

伝記映画というジャンルがある。最近だとナポレオン・ボナパルトとかオッペンハイマーとか。『ソーシャルネットワーク』はザッカーバーグのための映画だし、ヒトラーなんかも様々な形で狂言回しや主人公に据えられる。
あるいは「感動の実話を映画化!」なんてものも多い。登場人物が無名であっても、筋書きの面白さから脚本家に拾われる形なのだろう。

本作、ボヘミアン・ラプソディ。クイーンという伝説が現代に息吹を吹き返すに足る傑作だった。

「多様性」という言葉が根付いてきたもののまだまだマイノリティとされる人々の生きづらさは解消されていない。そしてフレディ・マーキュリーの抱える生きづらさは我々の想像を凡そ絶するものだったろう。
「俺はバイセクシャルなのかもしれない」
「いいえ、あなたはゲイ」
このやり取りからして、運命の人と信じたメアリーを失う恐ろしさ、そして自分の剥き出しのアイデンティティを他者から突き付けられる苦しみというのが嫌というほど伝わってくる。この作品は紛れもなく喪失と再生の物語であり、周囲の人々─バンドメンバーや愛した人、真に自分を見てくれようとした人、そして家族─と、クイーンの音楽という強力な2種の支点により伝記映画としての深みを確立させている傑作だ。物語を通じて、苦悩する誰かの心の拠り所となり勇気を与え続けている、という意味において本作の意義はあまりにも大きい。

伝記映画にありがちなストーリー端折り過ぎやろ物足りない感はありつつも、長尺ということもあり満足感のほうが大きかった。メアリーに纏わるある重要なシーンではたっぷりと尺を取っているのもメリハリを感じさせて良い。ガチのクイーンファンからすると時系列ガバガバで苛つく箇所もあるらしいのだが、自分は曲だけ知ってる勢であることが幸いしたのかもしれない。

キャストの演技も良かった…ブライアンメイ役誰だよ?!上手すぎんだろ…主演は言うまでもなく。大抜擢にも関わらず台詞なしのロングカットで客を惹きつけられるのだから紛うことなき一流だろう。

ライブエイドの迫力が大絶賛されているが、自分はエンドロール直前からのDon't stop me nowで号泣した。とても好きな曲というのもあるが、最後の最後で本人映像が流れたカタルシスが大きかったのだと思う。泣きそうな映画は一人で観るに限るな。
あとFOXのファンファーレと冒頭のSomebody to loveで鳥肌。素晴らしい。

全く新しい、誰も未だ成しえなかったことを、己のアイデンティティと命を賭して表現し続けたクイーン。その魂の高潔さを改めて感じ取れた素晴らしい時間だった。
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