RIO

ボヘミアン・ラプソディのRIOのレビュー・感想・評価

ボヘミアン・ラプソディ(2018年製作の映画)
5.0
今年度アカデミー最多4冠記念にマーク。
おめでとう、ありがとう。
もう雑多な愛が溢れすぎて、映画としての冷静な評価は出来ません。既に15回も劇場に足を運んでしまってるのに、五つ星付けなかったら誰が付けるんだということで…。

イギリスの伝説的ロックバンド「Queen」のVo.故フレディ・マーキュリーのレガシーを守りながら誤解なく世間に伝えるために、バンド結成当初から今もずっとQueenのメンバーであるブライアン・メイとロジャー・テイラーの絶大も絶大な協力のもと、構想含め実に10年余りを費やして制作された今作。
彼ら二人はもちろん、Queenメンバーや楽曲を心よりリスペクトするキャスト達と制作陣、Queenを愛する人々の素敵なカメオ出演、劇中でも観客としても今昔変わらずバンドを支えるファン達。
途中監督の交代こそありましたが、決して大物だからとキャスティングされたわけではない俳優たちの胸打たれる熱量もあり、関わる全ての人々のQueen&フレディ愛で作り上げられた、本当に素晴らしい作品だと思います。
公開時は批評家によって散々にこき下ろされていても、瞬く間に大衆を魅了して映画界最高の舞台にまで上り詰めたのも、さながらQueenの歴史のようです。

フレディの人生やQueenの歴史はもちろん様々なことがあって、20年近い時間を2時間15分に纏めるのは到底容易なことではなかったでしょう。映画として綺麗に纏められてはいますが、細かいエピソードを辿ると本家Queenの方が親密ですらある事柄も多かったりして、こんなに結びつきの強いバンドだったんだと衝撃を受けたのも記憶に新しいです。時系列の改変等はあれど本質は取りこぼしていない、納得のいく編集になっていると思います。
開幕から胸が熱くなる特別なファンファーレ、それに呼応して息を吹き返すようなフレディ、名曲をバックに大舞台が作られていく高揚感、無垢な夢を追いかけたメンバー達との日々、後に生涯の友人となる彼女との蜜月と別れ、自身のセクシャリティへの葛藤、バンドの成功と立ちはだかる壁、険しい道のりを経て得た心から愛せる人との出会い、何よりも大切な家族の理解、みんなが望んでいた素晴らしいステージへの帰還。
バンドやショービジネスの世界を支持したことのある人なら必ず胸打たれるシーンばかり、そうでなくとも一人の人間として共感できるシーンがたくさんあります。こう書くといくらノンフィクションベースだからとは言っても、成功〜挫折〜再興の流れで月並みに感じますが、今作が特別なのは何と言ってもフレディ・マーキュリーという人物の魅力と才能、そして人々を虜にさせるカリスマ性が、映画を観た人の心に主演ラミ・マレックを通して蘇るからではないでしょうか。

ラミさんのフレディ役としての素晴らしさは言うまでもなく評価されていますが、個人的にすごいと思うのはメディアで騒がれる見た目の再現やなりきり度以上に、表舞台を見ているだけでは見えてこなかったフレディ自身の人柄を細やかに演じきっている点です。私自身フレディのことも映画を見るまでは、正確にいうと映画を見て興味を持ち彼の人柄について調べるに至るまでは、特徴的なアイコンを持つ一人のロックスターだという認識しか持っていませんでした。しかし、今作観賞後意外に思い調べた存命時のインタビューやオフショットで、こんなに思いやりがあって、奔放ながら人には謙虚で、実はシャイで、ユーモアに溢れた美しい人だったことを初めて知りました。それは、ラジオから流れてくる音楽や、テレビで切り取られたライブシーンだけではわかりえなかったことでした。
ラミさんから滲み出る持ち前の愛嬌や些細な表情の作り方と、彼に憑依したフレディが重なって見えて、近しい人が知り当時のファンが垣間見ていた素顔のフレディを見事にスクリーンに映し出しているのです。パフォーマンスシーンのクオリティはさることながら、エキセントリックなだけでない愛すべきフレディの人柄、そしてロックスターであれど一人の人間なんだということがよく伝わる素晴らしい演技でした。
フレディのそんな一面を教えてもらえただけでも、この映画やブライアンとロジャーには感謝してもしきれません。きっと今なお深い愛情と思い出を持っていて、知的な人たちだからこそ出来た描き方なんだろうなと、おこがましいながら感じます。
すごいことだと思うんです。20歳前後で出会った二人が始めたバンドがフレディを迎えジョンを迎え、夢のような旅を経て、また二人に戻っても50年近くQueenとしての歩みを止めていないという事実。時折4人でいた思い出を笑って話しながら。きっと、この世を去ってしまったフレディや、彼の死後に音楽界を去ったジョンの想いも乗せて。
こんな絆は稀有なのでしょうが、素敵な人々に沢山恵まれたのは彼自身の魅力によるもので、フレディの人生の大きな功績の一つだったと感じます。バンドメンバーはもちろん、別れた後も彼の生涯の友人となった元恋人メアリー・オースティン。生涯最後の恋人にして彼を闇から救ってくれたジム・ハットン。如何なる時も支えてくれたファンやマネージャーのマイアミ。最大のリスペクトを身をもって表現してくれたキャスト達。そんなみんなやフレディ自身がたまらなく愛おしく、会いたくなっては何度も劇場に足を運んでしまうのです。こんなに涙が枯れない映画は初めてだし、これからも巡り会えるのか疑問です。

何回見ても飽きないのは、もちろん映画として純粋に面白いからでもあります。
この上ないキャスティングと彼らをより実在メンバーに近づけるヘアメイクや動きの指導、音楽アーティストの映画を作る上で欠かせない丁寧さと拘りが詰まった音響編集、バンドの絆や音楽作りの楽しさがキラキラと描かれる高揚感、胸を締め付けるシリアスなシーン、キャストと製作側が情熱を注いで再現した伝説のステージ達。
そして何より、間髪入れずに流れてくるQueenが生んだ名曲の数々。何度も聞いたことのある曲ばかりですが、当たり前に日常に溶け込み過ぎていて、恥ずかしながら歌詞に向き合ったことはありませんでした。しかし字幕で流れる歌詞を追っていると、フレディの人生一つ一つに驚くぐらい当てはまっていて、紡がれる言葉が痛いほど胸に刺さります。フレディやメンバーが自分や仲間に嘘をつかない曲作りをしていたからなのかな。そのシンクロぶりにいつも涙が止まりません。
2時間15分を全く退屈させないエンターテイメントの充実振りにはただただ脱帽です。小さなモチーフや演出も伏線やメタファーを含んでいたりして、見るたびに新しい発見があるのもリピーター続出の一要因でしょう。
でも実際一度の鑑賞では、特にQueenやフレディの知識が何もないと評価しにくい作品だと思います。人々の愛と思い入れで作られているから、それがないと心から感動するのは難しいはずです。なので、あまり心に響かなかった人も史実を調べた上で二度目を観て欲しい!

最高に素敵なフレディ・マーキュリーという人物やQueenというバンドを、今の若者が知り、当時のファンを再び燃え上がらせ、多くの人々が再び熱狂する大きな機会を作ってくれたことが本当にかけがえのないことです。ブライアンとロジャー、あなたの大切な仲間だったフレディの伝記映画を、こんなに光溢れる純粋で美しいものにしてくれてありがとう。
紆余曲折あったフレディのキャスティングも、みんなから愛されるラミさんで本当によかった。公開が2018年で、このキャストや制作陣になってよかった。みんなの努力が各賞を総なめにする形で報われてよかった。作品を通して生まれたボラプボーイズ達の並々ならぬ友情や、ラミさんとルーシーちゃんが恋に落ちたことまでも全てが美しくて眩しいです。
この映画の大ヒットはフレディが生きた美しい人生に対する祝福に間違いありません。
どうか天国で、彼が幸せでありますように…。

映画館で鑑賞することの意味、ふらっと運命の名作に出会えることがあるということ、様々な上映スタイルの楽しみ方…。今までの映画鑑賞観をガラッと覆してくれた、間違いなく生涯で大切な一作品になると思っています。
RIO

RIO