パイルD3

リバー・オブ・グラスのパイルD3のレビュー・感想・評価

リバー・オブ・グラス(1994年製作の映画)
3.5
年末のゴタゴタの最中ですが、先日観た「ファースト・カウ」の記事で一応宣言していた、配信に頼りながらとても個人的なケリー・ライカート監督インディーズ映画祭を、こっそりと始めました。その第一作目。

「1日はダラダラ長いのに、1年は短いのは何故…?」
こんな主人公のナレーションが出てくる
ライカート監督の長編デビュー作は、94年のサンダンス映画祭で注目されたらしい「リバー・オブ・グラス」。

これもひとつの漂流する人々が主人公。しかも、この漂流はかなりねじれている。

冒頭で、いくつかの写真や怪しい映像に、生い立ちを語る女性のナレーションが被る。
1962年生まれで、夫や幼い子供もいる30歳のコージーという女性が主人公。
10歳の時に母親は家を出て、父親によればサーカスに入団したらしい。
「私はサーカスにいる母を想像するのが好き、命がけで綱渡りする母の姿を」という印象的な言い回しが出てくるが、この言葉や母の行動がそのまま自分の姿にダプるかのようにストーリーが展開する。

一言で言えば、“リバー・オブ・グラス(草の川)“と先住民が名付けたフロリダの湿地帯を舞台に、家出主婦が町で知り合った拳銃を隠し持つ野暮な男とズルっと逃避行する話。
そう、ズルッとしているところがライカート監督の曲者らしさ。

主人公が結婚当時、オークションで買った安い家が事故物件で、妻が夫を風呂場で殺したという事件のくだりが粗雑な映像でチラッと出てくる。
殺した妻の動機に思いを馳せて、「きっと些細なことの積み重ねに苛まれたんだろう」と語るのだが、これこそ主人公が母と同じように家出に至る理由と同じだろうと思わせる。

かくして、男の持つ拳銃の出どころや、男女のすれ違いが描かれて行くが、発生するトラブルやあらゆる出来事の断片をつなぎ合わせて、見慣れない異質のドラマに仕立てるセンスは、ライカート監督には最初から備わっていたようだ。

更に、広大な風景や、街並みを背景にした人物の切り取り方はこの当時から抜群に巧い。
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