さききち

ラッキーのさききちのレビュー・感想・評価

ラッキー(2017年製作の映画)
3.8
ハリー・ディーン・スタントン 最後の主演作。
映画監督であり盟友 デヴィッド ・リンチも出演。
孤独な心に突き刺さり、そして同時に光と温もりを与えてくれる映画。淡々とした展開のため、好き嫌いはある映画だろうが、俺は確実に好きだった。

◆名台詞の数々
(孤独に鬱屈した)皮肉めいた言葉の中、
・“孤独”と“一人暮らし”は違う
・“孤独(Alone)”という字は皆(all)1人(one)ということに由来するんだ
・“永遠”なんてものは存在しない。あるのは●●●だけだ
など、存在論や死生観を含む深みのある会話が光る。また、会話の状況によって意味を変える「ある単語」に旨を打たれる。

◆最期の名演
そして何より、ハリー・ディーン・スタントンの演技が何より最高だ。外では偏屈で強がる彼。一方で、実感する人生の終期に、夜には子どもに戻ったかのように縮こまる。その表情は怯えと恐怖で満ち、何とも言えない哀愁と郷愁を感じさせる。遠くを見つめるあの目には、どれ程の想いがあったのだろうか。
そんな彼が見せるもう一つの表情。この表情に流された。御涙頂戴ではない、内面からの素晴らしい表情。何度反芻しても想いが溢れる。エンドロールでも思い出して泣いてしまった。

◆俳優としてのデヴィッド ・リンチ
劇中、リンチが語る台詞にも流される。
俳優 デヴィッド ・リンチを思うと、まず想起されるのは『ツイン・ピークス』のゴードンだろう。
監督自身のキャラもさながら、ゴードンの濃すぎるキャラは脳裏から離れないが、今作のリンチは確実に「良い意味で」映画に溶け込んでいる。カメオ出演くらいの短い出演かと思いきや、意外と長く出演しているので、リンチファンにもお勧めである。

〜余談〜
①仕事でご高齢の方と関わる機会も少なくないのだが、どんな偏屈で、どんなに嫌なやつでも、彼らも様々な人生や背景がある。クレーマーなどが嫌いすぎて心を失いかけていたが、ただ、普通な、そんなことを、最近ふと思い出すことが多い。そんな人間への想いに、マッチした時間だった。
②俺は何度も泣いてしまったのだが、全くケロっとしている人もいた。映画とは全方向性のメディアである一方、各人の背景やその時置かれた状況や心情によって捉え方やかたちが変わる魔法のような媒体だと、改めて今日思った。
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