こうみ大夫

ザ・スクエア 思いやりの聖域のこうみ大夫のレビュー・感想・評価

4.8
これを見て真っ先に思い出したのは『童貞をプロデュース騒動』だった。心の底で我々は不謹慎を欲しているのかも知れない。今のYouTuberがそこに行くというのも人類の必然なのか。冷やかしのような笑いを向ける相手は常に「弱い」と思い込んでいる者たちだ。富vs貧困、常識vs非常識、年長vs年少、男vs女…そういった枠に全て押し込み、その両者を巧みに提示することで善人であるかのように自己のプライドを満たす。あたかもそういうものの反対にいたはずのアートが今やそういった行動の主体に回っているという矛盾である。対立構造の中でしか生み出せない価値の弱さが露呈し、私たちは最早人など信じられないのではという気持ちに陥る。しかしこの映画で本当に“信じる”行為の瞬間が二度ある。一つは荷物を預けたホームレス、もう一つはアパートへ向かう父に付いて行こうとする二人の娘だ。これらは救いと言っていい。なんだこの金持ちのパーティは!という箇所があるが、これは現実にこうなのだ。そしてこういう人間が後進的なものをせせら笑うという現場が確かに存在する。こういう現実を許してはいけない、けれど自分もその一人であると気づかされる。
それにしてもこの監督は嫌な瞬間を永遠に描き続ける天才だ。特に音の扱いはピカイチ。
こうみ大夫

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