りっく

テリー・ギリアムのドン・キホーテのりっくのレビュー・感想・評価

3.3
かつて映画の撮影でドンキホーテを演じた初老の靴職人がずっと役柄が抜けずに21世紀に騎士道精神を貫いている。そんなボケ老人の大芝居の数々に翻弄され付き合ってあげる映画監督。本作は基本的にはカルチャーギャップコメディ要素と、振り回され続けるアダムドライバーのヤレヤレ顔を楽しむ映画だ。

だが、その楽しみ方はあくまでもこの状況を客観視するメタ視点を持っているからこそ成立する。本作はその距離を徐々に縮めていき、距離があったと思っていたことも実はまやかしかも知れず、客観と主観を揺らがせ反転させようとする。

役を演じるというロールプレイに孕んでいる危うさが浮き彫りになる終盤は、今まで笑えていた光景も、もはや自らの意志で現実から逃避し、その世界に閉じ籠っていた方がいいのではないかとさえ思えてくる。夢で生きるしかできない男を、現実や世界が嘲笑する様が如何に残酷なことであるかを突きつけてくる。

ただし、ギリアム作品全般に言えることだが、基本的には脚本を破綻させることで生じるドタバタ劇ではあるが、その笑いの背景となる部分が高尚なためにイマイチ作品に乗り切れない。またギリアムも含めて、ドンキホーテという男を描き、演じるという夢にここまで固執する理由は伝わりきらなかった。
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