真一

希望のかなたの真一のレビュー・感想・評価

希望のかなた(2017年製作の映画)
3.6
 もし肌の色も、言葉も、宗教も異なる身寄りのない異邦人が助けを求めてきたら、あなたはどうするかー。難民問題にどう向き合うべきかを考えさせる、フィンランド発の良作です。

 シリア内戦で両親を失い、一緒にギリシャに渡った妹とも生き別れた主人公の名は、カリード。カリードは欧州を放浪するうちにフィンランドの首都ヘルシンキにたどり着く。「世界屈指の人権国家フィンランド」。そんなイメージとは裏腹に、警察や難民施設は、まるで異物のごとくカリードを扱う。

 カリードの故郷アレッポは瓦礫の町と化しているにもかかわらず、警察はカリードを強制送還処分に。追い詰められたカリードは意を決し、妹との再会を信じて施設の柵を乗り越える。そこで目にしたのは、物乞いになった同胞、移民狩りに血道を上げるネオナチの群れ、そして、移民の対応に戸惑う多くの人々だった…

 ヘルシンキに渦巻く排他主義ムードがひしひしと伝わってきます。「フィンランドよ、お前もか」と唸ってしまう。それでもレストラン経営者のヴィクストロムが、行き場のないカリートを不承不承匿った場面は「さすが人権国家だ」と感じました。

 翻って日本はどうだろうか。最近、埼玉県でコミュニティーわつくるクルド人を犯罪集団のごとく中傷するSNS投稿をみて、呆然とした。日本は一度も難民移民に門戸を開放していないにもかかわらず、欧州顔負けの排他主義が吹き荒れているように思えます。こんなことで本当にいいのだろうか。しかし、私たちはこの日本で、ヴィクストロムのように振る舞えるだろうか。実に悩ましいです。

 カリードを演じたシャーワン・ハジはシリア出身の難民で、母語はクルド語だとのこと。現在はフィンランドで永住権を獲得。英語、フィンランド語をマスターし、映画中心に活躍しているようです。監督はカウリスマキ。この二人が伝える排他主義への懸念と、共生への希望をどう受け止めるべきか。深く考えさせられる作品です。
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