はなたまご

桜桃の味のはなたまごのレビュー・感想・評価

桜桃の味(1997年製作の映画)
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イランの映画監督、アッバス・キアロスタミの映画観の片鱗がみえる作品。

特に何も考えずにこの映画を見始めたため、その単調さにとても驚いた。背景は砂埃に霞む丘陵ばかり。主人公の情報はほとんど語られず、どうして希死念慮を抱いたのかさえ分からない。それに、あの唐突なラストシーンはあたかも観客の感情をスクリーン上から一気に追い出すかのようにこの作品のフィクション性を強調し、見る者を困惑させる。しかしそれはつまり、私達がこの作品を「外の世界」から見てどう感じるのかよく考えるよう求められているということだ。この映画においては、自ら死を選ぶことがどれだけもったいないことか、私達自身で老人の言葉からくみ取らねば、何も無いまま終わってしまう気づきのない時間を過ごすことになる。

現代文の問題を解いているような気分になるが、時には頭を使って言葉の真意を読み取る深い解釈を楽しんでみてもいいだろう。