月うさぎ

ALONE アローンの月うさぎのレビュー・感想・評価

ALONE アローン(2016年製作の映画)
4.0
この映画は兵士が主人公ですが戦争映画ではありません。恐怖を描いた心理劇なのです。

アーミー・ハマーが好きなのでという動機で鑑賞
「君の名前で僕を呼んで」と迷ったのですが、主役だし、大柄の彼の兵士の姿って美しいですからこっちをチョイス。

one small step for man one giant leap for mankind
アポロ11号の宇宙飛行士のアームストロング船長の有名な言葉をアレンジして
「人類にとっては小さな一歩だが一人の男にとっては偉大な一歩だ」
と語ってみせます。
この言葉、少なくとも2度は出てきます。

人は時として恐怖のあまり前に進めなくなることがあります。
例えば?
地雷原に足を踏み入れてしまって、地雷に足を乗っけてしまったような場合…?!
邦題は「ALONE」なんていかにもそのまんまですみたいなフリをしていますが、
原題は「MINE」ーー「地雷」ですよ。
そうなんです。
まさに地雷を踏んじゃったら?というお話なの

足がふっとんでも生き残る確率が何%はあるぞ、といわれようとなんだろうと、
それで平然と命を賭けて「前向きに」進んでいける人があるでしょうか?

でも、しかし「恐怖」とは。
起こってしまった悲惨な事実にもとづくものではありません。
最悪に不幸な運命が襲い掛かるかもしれないという未知の未来への不安や過去の傷の思い出こそが「恐怖」の姿なのです。

恐怖のあまり一歩も踏み出せず、もっと最悪の結果を招くこともある訳です。

相棒を目の前で失い、砂漠の真ん中で、陽ざしと熱と夜の闇と獣や敵と対峙し、救済を待つ絶望的な数日間
恐怖と孤独に私なら発狂するか、一か八か吹っ飛びますね。

主人公には父からうけた虐待と愛する母の死というトラウマがあり、愛する恋人がいるにも拘わらず結婚する自信が持てずにいます。

「一人の男にとっては偉大な一歩だ」というのは、こんな彼をからかいながら背中を押そうとした戦友の言葉でした。
そしてこれがまさに、地雷原で一歩も動けない彼の重大なテーマになってしまう訳です。

軽やかに前に進もう、歩き出そう、と歌うベルベル人の男
その娘だという笑顔のかわいい少女
なんとなくシュールな演出

過去から解き放たれ自由になろう、そのための勇気を持とう
テーマはそんなところだと思います。

それは、また、例のテーマをもとのセリフにもどして「人類の勇気ある一歩」を求めているようにも思われてきます。
恐怖に縛られて動けないのは、我々全員なのだよと。

でもね。正直テーマなんてどうでもいいんです。むしろ無い方が良かったんじゃないかなと思いました。
幻想みたいな方向に行かずに、シンプルにこのヤバい状況を描いただけの方が、受け止め方が多様になったと考えますが、皆さんどうなんでしょう?

アーミー・ハマーは、「コードネーム U.N.C.L.E.」でもそうでしたが、美丈夫なくせに、どこかもろかったり滑稽だったりという、このような役がはまり役だと私は思っています。
彼を観られたので満足。


一つとっても興ざめだったのはオオカミですね。
知能も高く、警戒心が強いオオカミが、武器を持っている人間を襲う訳がない。
ましてや砂漠に大型のオオカミが生息している訳がない。

映画の後半では事実と妄想が入り混じってきて、精神状況がおかしくなっている様子が描かれていますが、それにしても、このオオカミの描写によって水をぶっかけられた気がします。またオオカミかよー!!
へたなこけおどしで、せっかくの心理ドラマが台無し~。
月うさぎ

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