風の旅人

寝ても覚めてもの風の旅人のレビュー・感想・評価

寝ても覚めても(2018年製作の映画)
4.5
冒頭、朝子(唐田えりか)と麦(東出昌大)の馴れ初めのシーンに、「んなわけあるかい!」とツッコミを入れたのは岡崎(渡辺大知)だけではないだろう。
いささか長いプロローグの後のタイトルコール。
舞台は大阪から東京に移る。
麦とまさに運命的な出逢い方をした朝子は、麦が失踪してからも尚、麦のことが忘れられないでいた。
そんなとき朝子は麦とそっくりな見た目をした亮平(東出昌大)と出会う。

(少しイントネーションのおかしい)大阪弁のやり取りは関西人である僕にとって懐かしく、原作者が大阪出身なだけにリアリティがあった。
お好み焼きパーティでのクッシー(瀬戸康史)とマヤ(山下リオ)の修羅場は今作のハイライトの一つで、本音をぶつけ合った後に形成される関係性が興味深かった。
原作にはない東日本大震災の絡め方も秀逸で、今眼前に広がっている風景が永遠のものではないことを突きつけられ、特に意味もなく映し出される何気ない風景がとても愛おしく感じられた。
あんな運命的な出会い方をしたら忘れられないのは当然で、朝子の取った行動は倫理的には許されないものだが、心情的には理解できる。
人は日常を愛する一方で、心のどこかで非日常を求めている。
だから朝子は麦のことが忘れられないし、東日本大震災を機に亮平と深い仲になったかと思えば、突然現れた麦に再び心を奪われてしまう。
本作は朝子が北海道に向かう車中から携帯を捨てるシーンで終わってもよかったし、思い直して仙台の海辺を歩くシーンで終わってもよかった。
しかし物語は終わらず、冗長とも感じられるその後を描いた。
それは本作が恋愛映画ではなく、人生の物語であることを示している。
人生においては一寸先のことはわからないし、たとえ決定的な出来事が起こった後でもつづきがある。
天野川の水は汚いと同時に綺麗でもある。
僕には人生もそのようなものだと言われている気がした。
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