螢

寝ても覚めてもの螢のレビュー・感想・評価

寝ても覚めても(2018年製作の映画)
3.5
人を好きになるって、何を好きになることなんだろう。ふとそんなことを思った。
外見?性格?一緒に過ごした時間?ひたすら待っていた時間とそれに比例して膨らんだ思い?直感?もしくはそのすべて?
答えがないことはわかりきっているのだけど。

大阪在住の朝子は、自由奔放でつかみ所のない青年の麦(ばく)と唐突な恋に落ちる。
けれど彼はある日、朝子に黙っていなくなってしまう。
そして、失意のまま東京に出てきた朝子は、ある日、麦に瓜二つの外見を持つ会社員・亮平に出会う。

亮平に心を向けたきっかけは、間違いなく、麦そっくりなその顔。
けれど、勝手気ままな麦と、真面目で優しい亮平の性格は対極といっていい。

麦に与えられたのは、狂おしいほどの恋心と、待つ不安。そして、喪失の悲しみ。

亮平に与えられたのは、満ち足りた気持ちと、感謝と、穏やかで安定した生活。そして、消えない罪悪感と答えの出ない自問自答。

それでも、亮平への愛情は決して嘘ではないし、彼と結婚し、幸せになるはずだった。
けれど、いなくなったはずの麦が目の前に現れて…。

物語の最後は、一見収まったようで、実は大きな不穏を内包して収まってないような感じで。
同性としては、朝ちゃん、なんでそんなことしちゃったんよ…。それさえなければ…と思うのだけど、その不可解さと愚かさが恋の魔力というものか。
でもやっぱり、朝ちゃんは場の雰囲気に流されすぎな気がする…。

まあ、柴崎友香さんの描くヒロインって、日々にたゆたうような流され型が多いのはわかっていたので、そういうものとして楽しめましたが…。
誇張なく、生身の、弱くて、時に狡い人間をありのままに描く彼女の特徴が映像になってもよく出ていると思います。

展開からして、いかにも柴崎さん作品らしく、とても淡々と進むお話なので、好みは分かれそうな作品ですが、そのグレーなラストもあって、不思議と印象に残った作品でした。
螢