MikiMickle

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のMikiMickleのレビュー・感想・評価

4.0
全編をiPhoneで撮影した『タンジェリン』のショーン・ベイカー監督作品。今回は35mmに持ち替えて。

舞台はフロリダ。ディズニーワールドやユニバーサルスタジオの夢の国の近辺の、とある安モーテル マジックキャッスル。際どい極彩色の紫の建物に住む少女と若い母。
働きたくとも雇ってすら貰えない若い母ヘイリーと、無邪気なその娘ムーニーの姿を描いた作品。 サブプライムローンにより住宅を失い「隠れホームレス」と呼ばれる人々、アメリカ社会の底辺付近に生きる人々の現実を描いた作品。

役者は支配人役のウィリアム・デフォーと主役のムーニー以外は全員が素人。ヘイリー役のブレア・ヴィネイトはリトアニア移民。ムーニーの友達のスクーティー役の少年は実際にも生まれてからほぼモーテル住まい。「マジックキャッスル」も実際にあるもので、映画と同じように隠れホームレスの住まいとなっている。


なんというか、
愛おしさと哀しさと、母娘の関係と、やるせなさと、鮮やかなロケーションと、様々な感情が溢れてしまい、 もう、最後は、嗚咽しながら号泣してしまった…………



まず、舞台からして秀逸な設定。夢の世界が横にあるのにも関わらず、そこには足を踏み入れた事のないムーニー。
でも、その真横に存在する負と貧困の巣窟ともいえるモーテル界隈こそが全ての世界である。そして、これは確実に今起こっている事実である。

透き通った青空。ポップな看板たち。廃墟となった建物。低所得層の友達との探検。口うるさくとも愛のあるモーテルの支配人。キラキラしたお人形。アイスクリーム。それらが、とてもとても美しく描かれる。

ムーニーはやんちゃで生意気。正直、無邪気を通り越して、最初は少し苛立たしかったりもする。俗に言う“クソガキ”な部分もあって。しかし、子供は親の生き写しであり。まわりの姿を真似てる描写に、なんだか悲しくも切なくもなる。想像以上に子供は大人を見ている。それが全て。大人の素行が子供に直に繋がる。罪はない。
そしてそんな姿は、あっという間に愛おしさに変わっていく。キュートしかなくなる。そこにはたくましさがあり、生があり、愛があるから。ムーニーの、まだ幼さの残るムニムニ感を含め、真の純粋さを感じる。愛おしい。

そして、母ヘイリー。正直な所、問題はある。けれど、裕福な観光客を餌にしたりと、自分なりに最善の策をずっと必死にしてきている。それはあくまで、娘と暮らす為に…… 遂には家賃すら払えなくなっても……
彼女の後半の行動は映像には明確には表れないが、ムーニーへの深い愛を持って、自尊心を削って削って、生きるために行ってきたという事がよくわかる。愛おしい。

貧しくも生き生きとした楽しみと日々の生活。じわじわと寄せる現実と生きる糧とその代償……明日は浮浪者かもというギリギリの瀬戸際に生きるという事は、今の私たちにはなかなか理解出来ない事。実際には、ネカフェ難民など、隠れホームレスはいるのにも関わらず…
しかし、この母娘の姿は、生きる楽しさに溢れ、感情を素直に表す。さらけ出した素の姿の純粋さは、悲しみと美しさに溢れていた。
「タンジェリン」に続くこの作品でも、世間的に排除され蔑まされるような人々に対する監督の暖かで愛おしい眼差しを感じる事ができた。溢れる愛と悲しみで、問題提起をしていた。

余談。過去に1度だけ、この辺りを貧乏旅行した事がある。留学していた弟のボロボロ車で。なので、なんだか雰囲気がわかって… その時に、まさにこの舞台のような安いモーテルに泊まった。春休みの学生のバカ騒ぎのプールと、猥雑さと。それに対する海岸ののんびりとした雰囲気と、ガソリンスタンドで絡んできた浮浪者と、古臭いダイナーの看板と。 なんだか、虚構と現実が入り交じった不可思議な世界だった…… 滞在中の中で感じた差別はいくつかあったけれど、、そのひとつは夢の国であるユニバーサルスタジオでの事だった。悔しかった。それらが、この映画とリンクしたりもした。

とにもかくにも、作り物の夢の国の真横にある、真の、脆くも美しき真実の世界。 輝く喜びと、子供の世界の煌めきと、人の温かさと、夢と現実と。 哀しさと。 心から美しい映画だった。
MikiMickle

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