アキラナウェイ

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のアキラナウェイのレビュー・感想・評価

4.6
夢と魔法の王国の塀の外。

6歳の少女ムーニー(ブルックリン・キンバリー・プリンス)は母親のヘイリー(ブリア・ヴィネイト)とフロリダ州ディズニー・ワールド近くのマジック・キャッスルという安モーテルで二人暮らし。1つ下の階や隣のモーテルの友達と、観光客に水風船をぶつけたり、ツバの飛ばし合いっこをして、毎日楽しく過ごしている。

素晴らしい映画!
今年は良い映画ばかりでどうなってんだ!!

パステルカラーの建物、ヘイリーの髪の色はライトブルー、フロリダの青い空、そして虹…。観衆はその彩りの美しさに心奪われる。

こんなにも綺麗な色彩で彩られた世界なのに、本当はそれこそがマジック。ヘイリーの心の中はきっと色々な色が混じり合って、日々黒く濁っていく。それは現実の色。

まず驚かされるのは、安モーテルに居住する人の多さ。それこそがアメリカのリアリティなのか。

子どもの目線で描かれる日常は、ポップでハッピー。でもヘイリーの目線で見れば、少しずつ追い詰められていく生活。

定職に就いていないヘイリー。
ムーニーの入浴シーンが度々挿入される事に違和感を覚えていたら、そうかそういう事か。現実は厳しい。

母親役ヘイリーは監督がインスタから見出した新人というから驚き。演技の経験者は、ムーニー役のブルックリンとモーテルの管理人ボビーを演じたウィレム・デフォーだけ。

それ故か子ども達の演技が素晴らしく自然体で、悪戯も過ぎるけど何とも微笑ましい。迷惑ばかりかけられて煙たがってはいるけれど、ボビーがこの親娘に向ける眼差しは優しさに満ちている。

手についたアイスクリームを舐め回し
F○○kの連発
6歳の少女が中指を立て
親娘で雨に濡れ
周囲の目も憚らずにゲップ合戦
ストロベリーとラズベリーの同時食い(でも不味い)、ムーニーと彼女を取り巻く全てのシーンが愛おしい。

楽しい筈なのに心がズキズキと痛くなる。
この感覚は是枝裕和監督の「誰も知らない」に似ている。

そして最高のラストシーン。
最後にだけ見せるムーニーの涙にもらい泣き。