Kuuta

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のKuutaのレビュー・感想・評価

3.6
演技演出が巧み。ドキュメンタリーのように奔放でリアルな演技をする親子と対照的に、観客の興味を繋ぎ止め、ストーリーを動かしていく管理人(ウィレム・デフォー)や、戸惑いながらも親子と打ち解けていくジャンシー。このバランスの取り方がうまい。

子供目線な低いカメラと引きのカット。大人から見たら汚いばかりの滑稽な世界を、冒険するように歩き回る。天気の使い分けも印象的。

貧しいフロリダを子供のポップな視点で描き続ける。社会的なメッセージを伝えるというより、歪でもその場に間違いなくあった美しさを表現しているような。母子の閉じた美しい世界、という意味では2016年の映画「ルーム」も想起しました。

全編通して子供にとっての現実を描き続けた、その最後に訪れる飛躍。ストーリー的にはファンタジーなのに、映像的にはありふれた現実というギャップ。作中何度かヘリや鳥が出てくるので、てっきり最後は空でも飛ぶのかと予想していましたが、「現実と地続きの奇跡」というオチはこの作品のスタンスを象徴しているなあと。

個人的な見解ですが、ディズニーリゾートの魅力の一つは、強烈な非現実感から来るドラッギーさにあると思うんです。笑えるくらい過剰な人工感に飲み込まれるのが気持ちいいというか。

「ディズニーの偽物オモチャ」のような劣化コピーに囲まれて元気に生きていく彼らの姿に、勝手にその感覚を重ねてしまいました。安っぽいカラフルな物量に圧倒されて、楽しい時は全然気にならないのだけど、母が体調悪そうなシーンとか、気分が落ち込んでくると、急に周りの全てが醜悪に見えてくる瞬間もあって。

そういうあの部屋の空気、マジックキャッスルに住む人々の空気。一つ一つが強烈な存在感を放っていたなと思います。71点。
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