原一男の新作はアスベスト公害の国賠訴訟を追った200分超の大作。国の不作為を糾弾する筆圧の強い作風だけど、同時に笑えるシーンも多くてびっくり。夫を石綿肺の合併症で亡くした直後の原告の一人にインタビューするシーンで、「あんなに真面目な旦那さんで、お酒も飲まないしギャンブルもしなかったんでしょう?」という監督の問いに「賭け事はやってました、競馬競輪麻雀パチンコ……」と泣きながら返すとこは場内爆笑だった。「笑い」の多さはこの映画の特徴の一つで、「この訴訟を通じてできた仲間たちとの絆こそ最大の成果」みたいな雰囲気さえ漂わせたところに……かくも冷酷に人の死はやってきてしまう。
上映後、監督とのトークセッションが催されていたけど、そこにはこの映画のに原告団として「出演」した方々も列席していて、そのせいもあるだろうけど、ここで交わされた質疑応答は基本的に、国に対する強い憤りに貫かれたものだった。
でもこの映画は被害者側の暴力性だってしっかりと描いていたはずだし、原告団側に肩入れしているように見えて原監督はしたたかに俯瞰の視点を持っていたように思えてならない。側から見て、厚労省の役人も大変だなあ……と思った人だって相当数いたはずだ。ああこれは、真にドキュメンタリーだなあと強く思った。
質疑応答の中で、一番瑣末な質問に思えたけど、一番ひっかかったのが、浴槽に浸かる原告団の一人(女性)をカメラに収めたシーンについてのものだった。いくら年配の方とはいえ、裸同然の格好の女性にカメラを向け、「湯気のせいで咳が止まらなくなり、やっとの思いで痰を吐き出すまでの長回し」を撮影しているんだけど、なぜこんなシーンを撮ったかというと、その女性から「監督、撮りたいでしょ」と話を持ちかけられたそうなのだ。監督は「石綿被害の過酷さを表現するためぜひにと撮らせてもらった」と話していたけど、このエピソードこそ、ドキュメンタリー映画を撮るということはどういうことなのかを端的に表しているように思えてならない。