ちろる

スリー・ビルボードのちろるのレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.6
南部のミズーリ州の田舎町にある閉鎖的な空間に、ひと粒落ちた悪の雫の波紋がまた別の雫の波紋と重なり合って、歯止めが効かない復讐心の恐ろしさと、同様の痛みを背負わなければ立ち止まって振り返ることのできないという人間の愚かさがズキズキと痛い。
ほんの片田舎の小さな街の話を描いているようだけど今の世界の構図を見ているようでもある。
なんでしょうかこの作品、頭っからお尻まで予定調和なんて全部裏切られて、悪と善の構造もめちゃくちゃ、話が進んで理解してるはずなのにその5分先に誰に何が起こるかなんて全く予想もつかなくて、始終悲劇と緊張感漂うのにブラックなユーモアも所々散りばめられている。
ここまで激しい表現で心を抉るように人間を描いてしまうなんてある意味狂気だと思うけれどなぜか嫌な気分にはならない。
てっきりどうしようもない気分にさせられる不条理なものをとことん観せられるつもりでいたから予想とは違う感覚にさせられて戸惑っている。
当然、フランシス マクドーマンドのマグマのような無表情の怒りの表現もやばい。

さいごまでなにもかもが暴力的なのに、人間の悟りの境地を見せられている気分にもなってくるから不思議だ。
ラストに向かうにつれて何度か理由の分からない涙が出てしまったけど、心温まる良い話とは全然ちがう。
人間は生まれたままの純粋無垢なままではいられない、いろんな価値観で思考は偏ったり裏切りや怒りやプライドで歪んでいくこともあるわけで殆どの人間が美しくもないし完全悪にもなれない。
陰があり陽がある。
月があり太陽もある。
人間もまた、表裏一体なんだ。
私もちゃんと目の前のものの後ろ側を見つめることができているのか?自分自身の心の在り方も見つめ直したくなる作品だった。
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